少子化の進行が止まらない中、少ない子どもを大切に育てたいと保育・教育に対するニーズは高まり続けています。

それとともに、保育士や教員の資質、能力に向けられる視線も厳しくなっています。国の定めた養成課程を修了するのに加えて、こうした時代の要請にどこまで応えられるか。高等教育の無償化も視野に、大学教育の質の向上が一段と求められています。こうした中、未来志向のカリキュラムで《実力ある小学校、幼稚園の先生、保育士を目指そう!》と、新学部の開設を予定しているのが京都文教大学。

現行の臨床心理学部教育福祉心理学科に、定員はそのままに幼稚園教諭の養成課程を加えたこども教育学部こども教育学科です。学部長予定者の南本長穂先生と、学科長予定の柴田長生先生に、京都文教大学の保育士、教員養成の特徴と、新学部が目指すところをお聞きしました。

 

あらためて現行学科の特長について

 本学は2012年、臨床心理学部で身につける人間理解及び子どもの心に共感する能力や、カウンセリングなどの高度なコミュニケーション能力は、保育現場でも必ず役に立つと、臨床心理学科のコースの一つに、保育士を養成する「保育福祉支援コ―ス」を加えました。いち早く乳幼児の虐待などに目を向け、子育て環境が激変する中での親の支援を視野に、こころのケアや相談援助ができ、地域社会での子育て支援に対応できる保育士養成を目指したのです。

 
 この試みは同時に、当時スタートした全学的な教育改革、《ぴったり》(自分にぴったり、目標やキャリアにぴったり合致の意)のキャッチフレーズで表した《学びの目的の明確化》の一環でもありました。そして翌2013年には、「小学校教員養成コース」を加え、「保育福祉支援コース」を「保育福祉心理コース」に名称を変え、臨床心理学部の中に2コースからなる教育福祉心理学科を開設し、今日に至っています。

 ご存知のように本学は、2008年、日本で初めて臨床心理学部を開設、以来臨床心理学の分野では私学としては最大級の拠点を形成しており、層の厚い教員から提供される多様な科目は、臨床心理学的視点を加味した保育士、教員養成の大きな力となってきました。

 加えて、入学直後から卒業まで少人数制の演習を数多く設けている他、教育実習や保育実習以外に、実践演習やインターンシップが充実していて、4年間を通してその多くを「現場から学ぶ」仕組(現場往還教育システム)を構築してきたのも本学の大きな特徴です。教職課程では1年次(後期)から学校インターンシップをスタート、その後はインターンシップを軸に、3年次の教育実習をはさんで4年次に至るカリキュラムが展開されます。保育士養成では、1年次から現場見学実習を開始し、3、4年次には3回にわたる保育実習が行われます。さらに新学科開設時には、2年次に保育インターンシップが新設され(選択科目)、両コースを対象に海外インターンシップ(選択科目)も準備しています。

 また、本学の活発な活動の一つに地域連携活動があります。子ども食堂の学習・余暇支援、学生による虐待防止運動【写真上】、各種子どもフェスタ【写真下】など、子ども・子育てにかかわる地域での催しを学生たちが企画し、課外活動として積極的に参加しているのも大きな特長です。

 実習やインターンシップのコーディネート、派遣先との交渉や、就職支援を行う「教職・保育福祉職サポートセンター」のバックアップも見逃せません。教員採用試験に向けた対策を無料で行う他、保育士を目指す学生に対しては、就職先の照会や、希望する職場に合わせた少人数のグループ活動などもサポートし、保育士、小学校教員の高い採用実績にも寄与しています。

 

新学部について

新たに幼稚園教諭の養成を加え、《幼小接続》を見通して学ぶ
 新学部では、新たに幼稚園教諭の養成が始まり、現在の「保育福祉心理コース」は「幼児教育コース」に、「小学校教員養成コース」は「小学校教育コース」に名称が変わります。幼稚園教諭になるための課程を置くことは、これまで保育士資格取得のみだった幼児教育分野の充実につながるだけでなく、「小学校教育コース」との連携によって、こどもを一元的に捉え、《幼小接続》を意識した専門職養成を可能にします。「教職入門(小)」、「教職入門(幼)」という併設される二つの科目を例に取れば、後者では、15回の講義のうちの10回を幼児教育の専門家が教え、残りの5回を小学校教育の専門家が受け持ちますから(「教職入門(小)」ではその逆)、学生は教職全体を見通し、幼小接続の意味を実感しかつ理解することができます。

こども理解やこどもを支援する力を高める「三重構造」のカリキュラム
 教員養成、保育士養成には国の定めた養成課程があり、それを修了し卒業すれば、国家資格、免許を取ることができます。しかし近年、メディア世界の拡大や家族構成の変化、地域の教育力の低下など、子どもを取り巻く環境は様変わりし、そこから生まれる新たな課題への対応には、それだけでは不十分と言えるでしょう。

 そこで新学部では、こうした時代に求められる資質・能力もしっかり身につけた質の高い保育士、教員を輩出すべく、4年間を通して「現場から学ぶ」とともに、保育士、教員としてのプラスαの資質・能力を身につけるための豊富な発展科目などを一層充実させ、それが身につきやすいカリキュラムの構成、構造を工夫しました。年々厳しくなる課程認定と教育の質保証の二つを満たすカリキュラムの構築を目指すと言っていいかもしれません。

 具体的には、「三次元構造」のディプロマポリシー(DP)(卒業時に身につけてほしい力、めざしたい保育士・教員像)【下図】に基づくカリキュラムポリシー(CP)を、カリキュラムマップに反映し、養成科目も含め各学年ごとに必要とされる科目すべてを位置付けます。

 まずDP1に基づいて、免許・資格取得のための基幹講義と専門講義、専門実践演習の3つの科目領域を、DP2に基づいて資格取得のための専門科目と、独自設定による発展科目群の2つの科目領域を配します。発展科目群には、医学、臨床心理学、発達臨床心理学、家族及び学校ソーシャルワーク、実践カンファレンスなどの関連周辺領域の専門知見を学ぶオリジナルな科目を開設、同時に臨床心理学科に開設されている広汎な専門科目群も履修できるようにします。そしてDP3に基づいて、「学び続けることのできる資質・能力と、教員・保育者としての総合的な資質・能力」の養成を掲げ、4年間連続する実習などを軸に、臨床・実践的なゼミ演習体系を組み合わせて二つの科目領域を設け、実践力を磨く科目や、学び続ける姿勢や、将来のキャリアを俯瞰できる視点を養う科目を配します。

 ちなみに、中心に小学校の各教科や保育5領域について学ぶ小幼教科科目を置き、その外側に教育学科目群、発展科目群と広がる「三重カリキュラム構造」も新学部の大きな特長だと思います。

 

IT評価で、成長を実感

 本学では昨年から、シラバス改革に合わせて履修カルテのITシステム化を進めており、学生は所属コースに応じて「教職履修カルテ」「保育士履修カルテ」を利用します。専用アプリから閲覧、登録ができ、半期ごとに、各科目の履修状況だけでなく、シラバスの目標に対する到達度も確認でき、DPの実現や、よりよい専門職になるための自己評価を促す仕組みになっています。新学部においても、全学的な標語である《実感、成長力》を、まさに日々確かめ、明日の学修に活かしてもらえると期待しています。

京都文教大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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