2020年の建築士試験の受験要件緩和(建築士法改正)に対応したカリキュラムで、学部卒業で全員一級建築士受験資格を

世界を魅了する景観、歴史的建造物に比べて、個性がなく美しさに欠けると評される日本の街並み。人口減少社会の中でのインフラの老朽化や空き家問題、環境問題など、これからの建築家、街作りの専門家には幅広い視野や多岐にわたる能力が求められます。また建築士養成では、2020年からの建築士試験の受験要件の緩和(建築士法の改正)へ向けたカリキュラムの刷新も急務です。こうした中、文系の高校生にも建築士への道を開き、文理融合による建築学の再構築を目指すのが、明星大学が来春開設を予定している建築学部。その開設の主旨や背景、狙いなどを、日本における宗教建築の第一人者で、日頃「建築のわかる市民、行政職員の数をヨーロッパ社会のように増やしたい」と語られる村上晶子学部長予定者にお聞きしました。

 

日本の街並みはなぜ美しくないのか?

 その原因は、江戸時代までの木造中心の循環型の建物、街並みが、レンガや石造りの西洋建築、西洋的な街並みへと転換されることになった明治期に遡らなければなりません。

 建築という言葉は江戸末期の造語ですが、一般に認知された経緯は、伊東忠太※が、当時の「造家学会」を「建築学会」に改称して建築という言葉を広めようとしたことに遡ります。「造家」という言葉には芸術的な意味合いが抜けているとの思いがあったため、機能的な構築物とは一線を画した《建築》に改称した経緯があります。

 「建築」architectureは、歴史や文化、人々の日常生活にも目配りし、科学からアートまでを含んだ抽象的概念を表わす言葉です。彼の思想はその後の建築界に大きな影響を与え、大正後期までは、それまで木造建築しかなかった日本にも、美しいレンガや石造りの建築がたくさん現れました。

 ところが1923年(大正12年)の関東大震災を境に、日本の建物、街並みは安全、防災を最優先とし、建築に対する考え方も、構造設計、つまり工学的要素を重視したものに転換しました。この流れは、第2次世界大戦後の国土の復興、それに続く高度成長期に拍車がかけられました。急激な人口増から住宅を増やすことが最優先とされ、法整備も後追いとなる中で、建築物は画一的で個性に乏しく、街並みは乱雑なものにならざるをえなかったと思います。この流れはバブル崩壊で、一旦押し留められるかに見えましたが、直後に始まったグローバル化によって、東京への一極集中が推し進められ、超高層ビルによる中心街の形成は、他の主要都市にまで及び、美しい街空間への期待は大きく後退しました。同時に、地方の疲弊が進んだことは今更説明するまでもないと思います。こうした都市政策、街作りが、住む人の生活の豊かさや幸せにつながっているのかどうか、若いみなさんの意見をぜひお聞きしてみたいと思います。

※1867 〜1954 東京大学名誉教授。建築家、建築史家 日本建築を最初に見直し、日本建築史を創始したとされる。

 

総合大学の良さを活かして、これからの建築の課題に応える

 しかし近年は、超高齢化の進展、低成長、人口減少社会への転換、建築、街並みを取り巻く状況は一変しています。ついてはこれまでの高度成長を前提とし、経済優先の建築、思想なき街作りを一旦リセットし、未来へ向けてパラダイムを転換する必要があるのではないでしょうか。あわせて、新しい価値観を持った建築のプロフェッショナル、市民の育成と、大学における建築教育の改革も急務です。

 建築の伝統が深く根付いたヨーロッパでは、家を建てること一つをとっても、日本に比べてもっと身近なことであり、建築物や街並みに対する住民の当事者意識ははるかに高い。子どもの頃からの建築教育にも熱心ですし、大学における建築学部の多くは独立していて、芸術、美学系に加えて、経済学や心理学など、人文・社会科学系の科目も充実し、建築が中心の体系だった教養教育が備わっています。その上、ミケランジェロ以来の伝統を持つイタリアなどでは、学生数が5000人規模のものもあります。もちろん卒業生のすべてが建築士になるわけではありませんが、建築についての基礎的素養を持ち、街作り、身の回りの環境に対して意識の高い市民、行政マンを数多く輩出しています。

 これを日本における建築人材(建築のプロフェッショナル)の育成に当てはめると、建築学部が総合大学の中にあることは大いに強みになると思います。工学系、理工系大学・学部の中に置かれた建築学科、建築専攻、建築士養成プログラムに比べて、教養教育文理融合教育、最近のキーワードでいえばSTEAM教育に力を入れやすいからです。

 文理融合というと近年は、AIの進化、Society5.0への移行を視野に、文系の生徒や学生に向けて語られることが多いですが、建築教育においては、理系人材に対する文理融合教育もきわめて重要です。社会における様々な課題、世界全体を見据えたときのSDGsに象徴されるような課題、社会インフラの構築を担うものとしての倫理観などについて意識を高めることが、これからの理系人材、技術者にとって不可欠だからです。

 このような趣旨から来春、明星大学では従来の理工学部総合理工学科建築学系の規模を拡大して、建築学部を新設します。キャッチフレーズは《建築のチカラで世の中にもっと笑顔を》、ポスト2020を見据え、建築学、建築のあるべき姿を追求し、「文理融合型の人間学としての建築学」を追求したいと考えています。


3つのモデルで学び、卒業時には一級建築士受験資格も

 カリキュラムとしてはまず、2年次から3つの履修モデルを用意しているのが大きな特徴です。建築全般について学ぶ「建築デザイン」、自分の身の周り、住宅が好きだという人対象の「住宅デザイン」、耐震工学、構造設計、地盤工学、水理学、都市環境などの社会インフラ、あるいは解析などが学べる「建築都市エンジニアリング」です。いずれにも、3年次にはそれまで学んだことを元に自ら手を動かして物を作る「デザインスタジオ科目」がおかれ、体験から学ぶことを重視しています。また建築都市エンジニアリングでは、開設以来の地元の商工会との地域・企業連携にも引き続き力を入れます。

 専任教員(研究室)は、現在の10名から18名へ。実務家教員や、市民との合意形成や集合住宅における住宅計画などについて考えるコミュニティデザインの教員、また今後は避けて通れない木工の専門家も揃えました。

あわせて2020年からの建築士試験の受験要件緩和に対応すべく、必修科目の単位をすべて取得することで学部卒業時に一級建築士の受験資格が得られるようにします。1年次からの積み上げにはこれまで以上に力を入れてもらい、4年次には、卒業研究と並行して受験対策講座も設けます。

 全国的に建築の学部化が目立ちますが、国内の大学における建築の学びがすべて建築学部になってほしいと願う私にとっては大歓迎です。ただ、こうした中で文系のみなさんにも道を開いたのは、関東圏では本学が先駆けです。

 文系のみなさんの興味の対象は、法学部や公共政策系、経済・経営などと重なるかもしれませんが、新学部は、卒業時には全員、一級建築士受験資格の取れるカリキュラムになっている点が全く異なります。私はこれまで建築や街作りについての様々なレベルでの議論を見てきましたが、いざと言う時、自分の力でモノを作れる人とそうでない人とでは、寄せられる信頼が全く違います。自分の興味のある分野についての見識を深め、一級建築士の資格も目指せる新学部に期待してください。

 

文系のみなさんにも期待します

新学部の大きな特徴の一つが、入試の工夫によって、文系のみなさんにも道を開いた点です。人間に興味があり、世の中や日本をキレイにしたい。日本の建築や街作りに素朴な疑問を感じている、あるいは建築や街作りに強い関心がある、そんな人なら、文系の人でも大歓迎です。もともと文系のみなさんの中には、社会の課題に向き合いたいという人も多いと思います。ポスト2020の社会課題の解決、従来の業界の慣行、建築デザイン・街作りの常識に果敢に挑戦し、おかしいと思えることには、はっきりと「おかしい」と言える建築士を目指してほしいです。

 もちろん、数Ⅲとは言わず、数ⅡBまで学んできてもらえばいうことはありませんが、そうでなくても受験は可能です。材料研究に進むなら別ですが、構造計算に必要な基礎的な数学、解析や幾何学、および物理の力学などは、建築を学びたいという強い意欲さえあれば、大学入学後でも身につけることができます。反対に理系のみなさんには、国語や歴史を、受験に必要ないからと捨てないでほしい。建築学にとっては、数学が物事を合理的に組み立てるための原理について学ぶという点で重要なのと同じぐらい大切だからです。

小論文、プレゼンテーション入試も復活。

明星大学の建築は、2005年に始まる(理工学部建築学科)。ユニークなプレゼンテーション入試を行ってきたが、2010年の理工学部再編(総合理工学科建築学系に)で姿を消した。今回の学部化により、文系、芸術系マインドに溢れる高校生がチャレンジできる入試がAOで復活した。(第1回と第2回で実施)

 

建築学部 学部長予定者

村上 晶子 教授

1984年東京藝術大学美術学部建築科卒業。1986年東京藝術大学美術研究科建築設計専攻修了。1986年坂倉建築研究所入所。2001年株式会社 村上晶子アトリエ一級建築士事務所設立。2005年~明星大学理工学部建築学科教授(現総合理工学科)。2008年~2013年九州大学 客員教授、博士(工学)九州大学。日本建築家協会登録建築家。一級建築士・福祉住環境コーディネーター。神奈川県立湘南高校出身。

 

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大学ジャーナルオンライン編集部

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