作問に2年かかるため問題フレームは変えられない
大学入試センターは大学入学共通テストの試行調査(プレテスト)をすでに2回実施しており、問題と解答も公表しています。それを見ると出題の傾向が明らかに従来とは異なります。思考力をこれまで以上に問うためと思われますが、各教科とも問題文が非常に長くなっています。これは、高校での授業の場面や探求活動の場面を設問文の上で表現しているためです。そのため、これまでよりも問題文を読むための読解力が必要です。さらに国語では複数の資料を読み比べて、考えさせる出題があり、契約書や法律の条文など出題者側が論理的文章だと考えている素材が使われるなど、これまでの問題の素材とは異なります。これだけでも問題の難易度が上がり、平均点が下がることは間違いなさそうです。受験生は対策用の新しい問題集が必要になります。また、英語4技能試験と数・国の記述問題見送りによって、これまでのセンター試験の出題傾向に戻るのではないかとする見方もありますが、そうではないでしょう。なぜなら試験問題はすでに作成が進んでいるからです。
通常、大学入試センター試験の作問には2年が費やされます。大学入学共通テストも同様だとすると、2021年度実施の試験問題は、2019年の7月頃から作問チームが作業を開始、2020年の4月にはほぼ完成して、4月以降は最終チェックなどが行われます。入試問題を作成する際には、まず問題の構成などフレームを決めてから作問作業がスタートします。このフレームは入試問題の設計図です。そのため、作問を始めた後に設計図を変更することは極めて難しいと言わざるを得ません。つまりは、数学と国語の記述式問題の回答方法が選択式に変わるだけで、プレテストで出題された、これまでより難しい問題が出題されることがほぼ確定していると言えるでしょう。これは高校現場と受験生にとっては大きな負担になります。
英語「リスニング」の配点比率アップでどうなる?
出題傾向以外では、英語の配点に大きな変更があります。これまでは、筆記試験200点、リスニング50点でしたが、これが筆記試験(リーディング)100点、リスニング100点となります。試験時間は筆記試験80分、リスニング30分のまま変更はありません(リスニングの所要時間は機器操作の説明30分を含めて60分)。つまり、試験時間=問題ボリュームが半分にも満たないリスニングの重みが、設問数はやや増えてはいるとは言え、英語の配点でこれまで以上に増すということです。
今のところ、筆記試験とリスニングの配点を公表している大学は限られますが、1:1の均等配点の大学と従来のように4:1で筆記試験に重きを置く大学が、数の上ではほぼ半々です。リスニングを重視したい文部科学省の意向は理解できますが、入試制度の変更は往々にして思わぬ副作用が起きることが常です。ことさらに事態を悪く考えれば、英語が苦手な受験生が、筆記試験の点数は半分取れれば良いと割り切り、ひたすらリスニングの対策を行うことで高得点を狙うという行動に出る可能性があります。難関大学を狙う受験生は、そのようなリスクの高い受験方略は取りませんが、文法と長文読解に苦手意識な受験生は直前期になれば形振りを構ってはいられません。それで共通テストの英語の得点は伸びると思われますが、果たして本当に大学入学後に必要とされる英語の実力が付いたと言えるのかどうか、意見が分かれるところでしょう。
制度の変わり目はアクシデントが起きる?
これまで、延べてきたように、高校生、高校の先生方にとって大学入試改革は現在も進行中です。また、さらに心配なことは、これまで制度の変わり目には、必ずと行っていいほどアクシデントが発生してきたことです。
古くは1987年の国立大学複数受験、1989年共通一次最終年度の得点調整、また、教育課程の変わり目に行われた1997年のセンター試験の新・旧数学平均点の得点調整未実施などは、当事者である受験生にとって非常に影響の大きいものでした。また、試験実施の面では、2006年のセンター試験リスニング実施初年度、2012年の地歴公民と理科の時間割変更に伴う問題配布ミスなどは、実施者側が全く想定していないトラブルでした。
ただ、今からトラブルを心配したとしても、ここでは為す術もありませんので、生徒たちの成功を祈りつつ、同時に今回は何もトラブルが起きないよう、実施者側の皆様方の最大限のご尽力を願わずにいられません。
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