健やかな未来を作るこれからの心理学教育

 悩みを抱えている人が少なくない現代社会。うつ病や統合失調症など、精神疾患の患者数も現在400万人を超えている(厚生労働省「患者調査」より)。このような現状を踏まえ、近年注目されている分野が心理学である。その領域は医療や福祉に留まらず、感性評価やAIなど多岐にわたっている。今や人間に関するもののほぼすべてが対象といえるだろう。

 子どもから高齢者まで、人びとの健やかな生活をどのように向上させていくか。この命題に、心理学からアプローチしている教育・研究機関が、帝京大学文学部心理学科である。こころを科学的に解明し、実社会で役立つ心理学教育を推進するべく、1988年に誕生した。人文科学と医学的知識の融合を図り、こころの問題の解決やサポートに貢献できる人材を数多く輩出してきた。そして、誕生から30周年を迎えた2018年、社会の変化に対応するための改革が行われた。

 一つ目は、カリキュラムの一新である。基礎心理、社会心理、実践発達、臨床実践という4つの領域を設定し、学生が目標とする進路や国家資格である公認心理師養成への対応を可能とした。もう一つは、教育・研究施設の最新化だ。八王子キャンパス7号館の心理学実験・実習施設を全面的にリニューアルした。施設内は面接・観察研究エリア、実験研究エリア、支援室・調査研究エリアの3つのエリアに分かれている。個々の学生が探究したいテーマで心理学の研究に取り組めるほか、ゼミや演習などでも日常的に利用されている。改革の狙いについて、心理学科長である早川友恵教授に尋ねた。

 「今や心理学は、社会が直面する問題に正面から取り組める学問といえます。そこで、ソフトとハードの両面から教育の質と量を一層向上させたいと考えました。たとえば、施設のリニューアルで重視したのは、最新の生体計測機器を導入することだけではありません。めざしたのは、知的好奇心を刺激する環境です。ほかの学生が行う実験や実習の様子が廊下からも覗えるように、スケルトンの壁を多用したことも特長の一つ。こころの問題を敏感に発見できる能力を養い、あらゆる解決策を試すために施設を使いこなしてもらいたいと願っています」

 この施設を利用し、研究に勤しむ学生の満足度は極めて高い。プレイルーム・行動観察分析室で子どもの行動心理を研究中の学生に感想を聞いてみた。

 「研究に必要なサンプルを集めるには、子どもが行動を起こしやすい空間が必要です。その点、プレイルームが広く、玩具も十分に揃っていることは大きなメリットです」「遊ぶ子どもたちの様子をあらゆる角度から撮影し、隣室の行動観察分析室ですぐに分析ができるので、研究を効率的に進めることができています」

 帝京大学文学部心理学科で行われているのは、競争原理によって一部の学生の能力を高める教育ではない。すべての学生の主体性や問題解決のモチベーションを引き出す『発見を育てる』教育である。その先には、“心理学教育で未来を作る”というビジョンが描かれている。

01. 「実験室」には、人間の認知の働きを検証できるバーチャルリアリティ装置や、興味などの目に見えないこころの動きを探る視線計測装置を備えている。
02.砂の入った箱の中にミニチュア玩具を置き、自由な表現や遊びを通して行われる箱庭療法を体験できる「心理療法実習室」。
03. 「カウンセリング心理検査実習室」では、さまざまな経歴を持つ教員がカウンセリングや心理検査を指導する。
04. 奥に見えるのは、幅広い年齢に対応した玩具のほか、あらゆる角度から撮影できる機器が備わる「プレイルーム」。手前に見える隣室の「行動観察分析室」では、録画・録音・編集・分析が可能である。
05.「脳機能測定室」では、こころの神経基盤である脳を研究。脳波や生理指標の計測装置、微弱な脳波の信号を捉えられるシールドルームも備わる。
06.一緒にいる人、働く場所、見ている風景など、社会や環境の違いで生じるこころの動きを「サーモグラフィ」で分析。

帝京大学
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大学ジャーナルオンライン編集部

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