2023年2月20日、昭和女子大学(理事長・総長 坂東眞理子:東京都世田谷区)と駒場東邦中学校(校長:小家一彦)が、3年間取り組んできた「女子大生と男子校中学生が一緒に考えるプロジェクト」の集大成である授業「歩み寄るということ」が、昭和女子大学のキャンパスで開催された。開始前、続々と男子中学生が大教室に入ってくる。コロナ禍を経験した今、マスク着用ながらも生徒たちが一堂に会する風景には感慨深いものがあった。
女子大学の学生と男子校の中学生という、おそらく接点も少なく互いに異質な価値観を持つ者同士が、他者を理解することを目指し、いくつかのテーマについて、共に考え対話を深めていくこのプロジェクト。コロナ禍にみまわれたオンラインでのはじまりから3年目、念願の対面での授業が実現した。
プロジェクトに参加するのは、昭和女子大学グローバルビジネス学部、人間社会学部1~4年生22人と、駒場東邦中学校3年生約240名。
中学生は6クラスにわかれ、それぞれのクラスを数人の大学生が担当する。昭和女子大学では、学生が学生に教える「ティーチング・アシスタント(TA)」制度を取り入れており、その訓練を受けた昭和女子大学の学生がファシリテーターとして授業を進めていく。
2021年は、「ディズニープリンセスの変遷」「ファーストジェントルマン」、2022年は、「こんなとき、あなたならどう思う?」「世の中の反応から見る固定観念の変化」というテーマで「無意識のバイアス」について考えてきた。今回は、まず自分たちが置かれている環境、「男女別学」のメリットやデメリット、歴史的な背景についてグループワークを通して考えた。
中学生は、男女別学のメリットについて、「オタクが尊重される」「団結力が強い」「まわりを気にする必要がない」、一方デメリットとして「パートナーができない」「社会に出るのが不安」「異性とのコミュニケーションに緊張する」などの意見をあげた。
大学生からも同じような意見が聞かれ、お互いに、自分の置かれた「別学」という環境の居心地の良さを感じながらも、社会に出て多様性の中で生きていくことへの不安や課題感を抱いている様子が見て取れた。
また、「男女別学は必要?必要ではない?」という問いについて、数人ずつに分けられたワークグループの全てが必要だと答えた。デメリットはあるとの認識ながらも、メリットがデメリットを上回ると感じられることや、「共学」とともに選択肢のひとつとしての「別学」の必要性もあるなど、客観的な視点での意見もあげられた。
中学生にこのプロジェクトについて聞いてみると、今回のプロジェクトに参加して何か行動しなければいけないかなと感じてはいるものの具体的な行動までは特にしてはいないという。
駒場東邦中学の向井恒爾教諭は、「現時点では、この授業を三年間受けたから、何か生徒たちの行動に目に見えて変化があった、ということはないですね。しかし、結果の如何は別にして、中高という極めて多感な時期に、外部と関わらないことで偏った考え方にならないように、生徒自身が個々に考えるためのさまざまな経験や機会を、私たちは粘り強く生徒達に提供していかなければいけないと思っています」と話す。
昭和女子大学で、このプロジェクトを担当する現代ビジネス研究所事務局長の小森亜紀子准教授(グローバルビジネス学部)も「最初は女子大生に対するイメージとして『キャーキャーしている』『群れている』『チャラく遊んでいる』などのネガティブなワードが中学生のアンケートに並んでいたのですが、プロジェクトで一緒にグループワークをしたり、実際にコミュニケーションをとったりしたことで、振り返りシートでは女子大生のイメージがすごく変わったと書いてあったのが嬉しかったですね。学生の側も、このプロジェクトの企画準備を通して、いろいろな気づきがあったと思います。
特に授業用の資料を作りながら『あれ?実は無意識のバイアスって、対象は女性だけじゃなく、男性にもあるよね?』『生きづらさって、もしかしたら日本の場合、男性の方が生きづらいかもしれない』などの自分自身の中にある『無意識のバイアス』にも気づいたようです。何よりチームワークとリーダーシップが目に見えて成長しました。相手がいるプロジェクトのため、努力を惜しまず取り組み、私が逆に引っ張られていたようなこともありました」と、プロジェクトを通しての学生の様子を振り返った。
授業の最後には、性別の偏りのある職業や企業における問題、仮に経営者だとしたら働きやすい職場づくりのために何に取り組むべきかについて、実際の企業の取り組み事例を紹介しながらディスカッションを行った。
残業をなくすための具体的な施策として「残業しないと給料が増える仕組みにする」「個人ではなくそれぞれに得意な能力を活かしタスク形式にしてチームで協力し仕事を終わらせる」など、すでに企業で取り組まれているような実現可能性の高い発表もあった。
発表を受けて、ファシリテーターを務めた大学生からは「これからの多様な社会では、違いを認識して歩み寄ることこそが大切になっていくのではないか」という問いかけで授業は締めくくられた。授業を終えて、2年間このプロジェクトに参加している学生は、「準備は大変でしたが、昨年の「無意識の偏見」のことを覚えていて、今回のワークシートに意見を書いてくれた生徒もいて、取り組んだ甲斐がありました」と話す。
グループワークでは、積極的に発言する生徒もいれば、静かに聞いている生徒もいる。それぞれのグループで自分なりに前向きにワークに取り組んでいる中学生と、一生懸命中学生の意見に耳を傾け、ディスカッションを豊かなものにしようとする大学生の姿が印象的だった。
ジェンダーに限らず、差別や格差など、それぞれの問題にはグラデーションがある。さまざまな社会課題に対して、私たちは一括りに解決への即効性を求めがちだ。しかし、まずはお互いを知ろうとすることや、実際に会ってコミュニケーションをとることの重要性を、彼ら彼女らの取り組み姿勢や率直な意見にあらためて考えさせられる授業だった。