持続可能な発展は、世界の人々の共通の願いだが、世界は、紛争、経済格差、気候変動、自然災害、環境破壊、パンデミック、少子高齢化など、人類の日常と未来を脅かす諸問題であふれている。

京都大学の総合生存学館は、2013年春、こうした人類の生存にかかわる社会課題の解決に挑むグローバルリーダーの輩出を目指して開設された。5年一貫博士課程の大学院で、修了生には博士(総合学術)が授与される。現在の5学年の学生数は83名、今春までに29名の博士課程修了者を社会に送り出した。修了生たちは、社会変革人材として嘱望され、国際機関、大学・研究機関、官庁、企業、NGOなどで活躍している。

同学館では、間もなく24年度入学者選抜の冬入試について募集を始める見通しだ。また、詳細は未公表だが、来年度からの入学者には新たな給与奨学金制度も用意されているという。そこで以下に改めて、京都大学大学院総合生存学館のこれまでの特徴ある取り組みを振り返ってみる。

先ごろ、京都大学東一条館で開かれた同窓会「第7回 遊聞会」から

 

学生の幅広い研究分野に応えるテーラーメイドの指導体制

同学館の最大の特徴は、理系・文系の幅広い研究分野から社会課題解決を目指す学生のニーズに応えられるよう、学生一人ひとりに応じた「テーラーメイド型」のカリキュラム設計にある。そのために採っているのが、複数の教員が学生一人ひとりの研究を学際的に指導する「複数指導教員制度」。学問的な背景や専門研究分野が多岐にわたる学生に対して、同学館所属の専任教員に加え、他研究科・研究所の教員も協力する。

教室や研究室がある東一条館にある「ラーニングコモンズ」では、多様なバックグラウンドを持つ学生が異分野の学生と机を並べ交流し、互いの知見を共有しながら学びあい研究を進める。また教員主宰の「複合型研究会」では、共同研究や研究発表を通して互いに切磋琢磨する。

各学年には、社会課題を解決しようという志を育むための様々なプロジェクトが

1~2年次の「サービスラーニング」は、地域コミュニティにおける実践的な学びを通じて、様々な立場と視点、および文化・社会習慣を理解し、規範意識と社会性、他者を思いやる心と行動力を兼ね備えたリーダーにふさわしいマインドの育成を目的とするもので、京都市近隣の福祉施設など、学外機関の協力のもと行われる。

社会の様々なセクターで活躍しているトップリーダーと徹底的に議論を行うセミナー型の授業が「熟議」。ここでは、実社会の様々な課題に関する問題意識の育成と深掘りを図る。担当講師には、国際機関、行政機関、企業、NGOなど様々な分野で長年活躍してきた各界のリーダーを特任教員として招聘している。

3~5年次では社会課題の生じている現場で実践的に活用できる知識と経験を習得するため、「武者修行」(実践力と国際性を養うインターンシップ)と称するインターンシップ活動に取り組む。世界視点で自らの立ち位置を見定め、国際的に通用する総合力、社会性およびリーダーシップの育成を目的としたカリキュラムだ。派遣先は、国連やIEA、OECD、世界銀行等の国際機関、企業、NGOなど世界各地に広がる。個々の学生は自らの関心に合わせて希望する機関を探し、指導教員や学館のサポートのもと、受入れの交渉等を行う。指導教員は派遣先の選択や受け入れ交渉の支援だけでなく、派遣中もメールやオンラインミーティング等で日常的に連絡を取り、必要に応じて現地訪問なども行う。派遣のためのファンディングを自ら獲得することが奨励されるが、できない場合は学館からも費用を補助する。

武者修行の後には、5年間の研究と実践的教育の集大成として、学生自らが研究成果を社会実装につなげるためのプロジェクトを企画立案し、他機関の関係者を巻き込んで実行するPBR(プロジェクト・ベースド・リサーチ)がある。

様々な知見、経験を統合して課題を解決するための企画・実行力、交渉力、発信力の獲得が目的だ。実施にあたっては、予算、実行にかかる人員の調達、関係各所との調整、法的及び経営的な作業などを、学生自らが仲間と共に実行する。必要な資金は、学館からも一定の補助があるが、諸団体や一般企業からスポンサーを募るなど学生自身が獲得するケースも少なくない。PBRの成果は、社会実装を重視する同学館にとってきわめて重要なため、博士学位論文に組み込まれる。

近年、日本の大学では学部および大学院教育の改革が加速しているが、これらの取組が、すでに10年以上も前から行われてきたことには、改めて注目する必要があるだろう。

今年から新たな10年目を踏み出した同学館では、さらなる改革を進めていくという。具体的には、2025年度入試からの選抜方法とカリキュラムを一部変更する。また、月額10万円程度の給与奨学金を独自に設けて、優秀な学生の就学を経済的にも手厚く支援していく方針だ。

国際機関・政府機関で活躍したい、持続可能社会を担う専門家になりたい、実務で活躍する博士になりたい、学際的な研究を目指す研究者になりたいという若者に向けて、「世界で活躍する修了生の後を追って、社会を、そして世界を変える活躍を目指しませんか」と同学館では呼びかけている。

大学ジャーナルオンライン編集部

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