理系・文系のさまざまな科目を、偏りなく横断的に学ぶ文理融合型の学びで、「総合知」の創出をめざしている、同志社大学の“文化情報学部”。今回は、その中で「時空間情報科学」「文化・社会人類学」「地理学総論」の授業を担当されている時空間情報科学・行動計量解析学研究室の津村 宏臣准教授に、詳しくお話をうかがった。
タイムトラベル?パラレルワールド?
「時空間情報科学」とは
「タイムトラベル?やっていることは実はそれに近いんですよ。タイムトラベルとは、量子論的・量子力学的な世界ですが、いわゆる量子論というのは確率論。だから、私達はパラレルワールドがあるのかどうかについて、コンピューター上で試してみるわけです。同じシチュエーションが与えられたとき、同じ行動のルールを持った人間が、同じ行動結果になるのか、コンピューターを使ってシミュレートしていきます。」と語る津村准教授の本来の専門は「先史人類学」という分野。
「いわゆる人類としてのホモサピエンスの歴史そのものを、単に歴史学として研究するのではなく、行動や生態的なことを前提とした研究が私の本来の専門分野です。
例えば、私達の直接の先祖といわれるサピエンスが、お墓のようなものを作り始めるのは随分現在に近くなってからのことでした。しかし、ネアンデルタール人は、その随分前からお墓を作って花を供えるという文化を持っていたのです。そういう文化を持っていた彼らが滅び、文化的に遅れていた我々が生き延びた原因とは一体何なのかについての疑問が私の研究のスタートとなりました。
こうした行動や生態的なことを“文化情報”として見ようとすると、時間と空間の中で行動するので、その痕跡が必ず残ります。痕跡は情報化できるので、その情報から行動や生態的なことを再構築し、その再構築された行動が今の私達とどう異なっているのか比較することができるのです。それを行動メインで考えるときは「行動計量解析学」になり、行動を復元して科学する部分は「時空間情報科学」という学問になるのです。」
学ぶ上での大切な物の見方
「赤い色を見ると興奮したり、危険を感じたりすると聞いたことはありませんか?でも、世界中の人類を見ればわかるように、そんなことは絶対にないわけです。例えばアフリカの一部の遊牧民族には赤という色の概念がありません。あるのは、湿り気。私達は色を見るとき、湿り気を判断基準にはしませんが、アフリカの遊牧民にとってはそちらの方が重要。私達が当たり前だと思っている赤・白・黄色も、実は赤・白・黄色じゃない世界というのがこの地球上にはたくさんあるわけです。
また、私達は“家族”といいますが、中東地域の“家族”という概念は異なります。彼らは時にはクランという言い方もしますが、一般的には氏族(うじぞく)の概念で生きています。だから、季節ごとに遊牧先を変えて、その地域ごとに奥さんのいる一夫多妻制という世界は、人口減少を起こさないための仕組みなのです。
このように、世界は多様な仕組みで成り立っており、実はその多様な仕組みを持っている人達の方が先進国の人口よりはるかに多いのです。だからこそ、いわゆる先進国の非常に限られた世界しか知らない目線で世の中を見るのではなく、世界にある多様な文化にどう科学的にアプローチしていくのかを知って、社会に出てほしいと思っています。」
文系・理系を超えた専門分野の異なる先生がコラボすることで生まれる、新しい学びの授業「ジョイント・リサーチ」
文系・理系の多岐にわたる分野を専門とする先生たちが数多く所属されている文化情報学部。この学部ならではの授業が、2~3領域の専門の異なる先生方がタッグを組んで一緒に授業を行う「ジョイントリサーチ」。グループで探究型演習を行いながら、新たな問題を発見・解決する能力を身につける。
「以前は人間の行動を数理モデルで書かれる先生と組んで、コンピューターの中に作ったパラレルワールドの中に、1000人なら1000人別々の気質をプログラムした人を入れて、空間の条件を変えたときにその1000人がどのような行動をするかを観察し、科学的にモデル化するジョイント・リサーチを行っていました。
今は、国際関係の先生と組んで、地球温暖化や貧困問題といったSDGs一つひとつのテーマについて、実際の世界はどうなっているのかを学生たちがデータを集めて考えるジョイント・リサーチを行っています。理系・文系を超えた全く異なる領域の先生とのコラボで、以前から挑戦してみたかったことに学生たちと一緒に取り組むことができました。」
- 1
- 2