2024年1月1日の「能登半島地震」から6か月目を迎えました。少しずつ復旧が進んでいるとは言うものの、半島故の様々なハンディは思いのほか大きく、復興にはまだまだ長い時間がかかりそうです。金沢星稜大学の大久保 英哲学長がこの6か月間に及ぶ大学での取組みを振り返ります。
創造的復興論
金沢星稜大学では第4次中期計画(2024-2028)に、「能登半島の創造的復興とともにあゆみ、地域創生に貢献する全学的な取り組みを推進する」という決意を表明しました。その一環として4月から「創造的復興論」という新規講座を開講(取りまとめ佐々木康成教授)したところ、学内だけで459名の受講登録があり、学生の皆さんの関心の高さを知ることができました。このほかに「いしかわシティカレッジ」等にも提供し、オンラインで全国公開しています。
大学コンソーシアム石川:【全国版】 令和6年度 いしかわシティカレッジについて
https://www.ucon-i.jp/newsite/city-college/r6-ishicolle.html
のと応援祭
6月8(土)・9(日)日、学友会の皆さんの発案・企画によって、例年秋にしかやっていない大学祭を、急きょ「星稜・のと応援祭」として開催しました。「星稜から笑顔の架け橋を!」とのスローガンのもと、義援金受付、輪島朝市など能登地区からの出店・特産物の販売も行われ、中学生以下の子どもたちのいる被災家族には「お笑いショーやダンス公演」なども無料で招待するなど精いっぱいの応援事業を実施しました。
このように能登に寄り添い、共に歩もうとする大学の意図を、学生、教職員がともに真剣に受け止め、実行に移してくれることを学長として心からうれしく、またそのような大学の学長であることを心から誇りに思います。
夏休みボランティア
学生から、夏休みになったら、ボランティアとしてお手伝いに行きたいという声も多数寄せられています。本学の学生・教職員の中には実家や親せきが罹災したという方も100名ほどいます。放っておけないではありませんか。
4月に「創造的復興論」準備のために視察させていただいた珠洲市では泉谷満寿裕市長自ら窮状を訴えられておりました。珠洲市木ノ浦に移り住んで「実践地域経済論」を実践している本学名誉教授・澤信俊先生、本学卒業生で「道の駅狼煙」を運営している小寺美和さんからも「人間の復興」には「若い学生さんの存在が大きな力になる」と期待が寄せられ、また、大学と現地のニーズをマッチングしていただけるとのことです。
夏休みを利用して、星稜ボランティア団として出かける学生に大学でも最大限の支援を惜しみません。数次にわたる企画や準備が必要ですので、大学からお知らせしていく予定です。
能登のすごさに光を
2024年2月25日の「学長室の窓から」で「能登の被災酒造家とそれを支える各地の名望・酒造家たち」を取り上げました。
奥能登の3つの市町にある、100~200年以上の歴史と伝統を持つ11の酒蔵はいずれも大きな被害を受け、今季の酒造りは絶望的と言われました。ところが、3~5月にかけて、いつもとは違う形ですが、新酒が出来上がりました。まさに奇跡です。この奇跡は、金沢市、白山市、小松市、加賀市などの同業者の皆さんが、さらに県外からも長野県や宮城県の酒蔵が、被災した能登の蔵から日本酒のもととなる「酒米」や「もろみ」を引き取り、共同で製造を代行し、また元に戻し、資金の提供も行ったのです。
「酒蔵仲間として当たり前。まずはもろみを救うことができてよかった。」「奥能登の酒造は一緒に頑張ってきた仲間であり、少しでも助けになりたい。」社長さんたちの言葉に私は感動せざるをえません。でき上った新酒もまことに味わい深く、心から酔うことができます。
現代の弱肉強食の資本主義社会において、利潤追求の立場から考えると、ライバルメーカーにとってはまたとないビジネスチャンスなのだろうと思うのですが、こうした同業者さんたちの助け合いの行動や発言、ネットワークの拡がりを見て、「名望家」という言葉を思い出しました。名望家というのは、一定の資産や教養に加え、人望を集め得る企業家のことです。そしてこの名望家という概念が人にやさしい「新しい資本主義」への手掛かりになるのではないかと私はひそかに期待します。
4年生、特に経済学部の中には卒業研究のテーマに何をとり上げようかと悩んでいる学生がいるかもしれません。例えば「能登の被災酒造家とそれを支える各地の名望・酒造家たち」に個別に光を当て、如何にしてそれが可能であったかを実証的に明らかにする研究などいかがでしょう。地元に生きる皆さんならではの、しかもまさに今しかできない貴重な研究になることでしょう。
金沢星稜大学:学長室の窓から~能登の被災酒造家とそれを支える各地の名望・酒造家たち
【引用】金沢星稜大学 学長コラム『能登応援メッセージ「能登半島の創造的復興とともに!」』
金沢星稜大学
大久保 英哲 学長
1950年青森県生。1982年筑波大学大学院体育研究科修了。1997年博士(学術)。
盛岡大学講師、金沢大学助教授、教授。2015年名誉教授、金沢星稜大学特任教授。2020年金沢星稜大学女子短期大学部学長を経て、2022年より現職。専門は体育・スポーツ史。『明治期比較地方体育史研究』『纏足から天然足へ 日本統治前期台湾の学校女子体育』『箱根駅伝を超えようとした幻の能登駅伝』ほか著書・論文多数。スキー・スケート、テニス、ウォーキングを趣味とする。「学長コラム」「学長室の窓から」(~2024.3/短大部)を大学WEBで公開している。