来年、2025年度入試は高校の学習指導要領が改訂されてから初めての入試となる新課程入試です。そこで注目されるのが、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の平均点です。共通テストの平均点のアップダウンは、国公立大学の出願はもちろん、私立大学の一般選抜の志願者数にも影響します。過去、大学入試センター試験時代の新課程入試の平均点を振り返って来年の入試を考えます。

 

過去の平均点を振り返ると

 大学入試センターのホームページには過去に行われた試験の受験者数や平均点などが公開されています。下記URLの「志願者数・受験者数・平均点の推移」では、これまで行われた共通テストの平均点や受験者数を見ることができます。さらに大学入試センター試験(以下、センター試験)として行われていた1990年以降の全ての試験の平均点・受験者数が確認できます。過去の入試を振り返るためには貴重なデータベースとも言えます。

 さて、一般的に制度の変わり目は共通テストの平均点が高くなると言われています。実際、共通テストの初回に当たる2021年度入試では、大方の予想に反して前年よりも平均点が上がりました。問題が易しかったというよりは、制度変更・出題傾向変更に危機感を抱いた受験生がすごく頑張って高得点を取ったからだとも言われていますが、とにかく前年よりも平均点がアップしました(翌年大幅にダウンするのですが・・・)。

 そこで過去の平均点から、新課程入試に該当する年度の主要科目の平均点を昨年2024年共通テストの平均点と比較することで本当に平均点が高いのかどうかを見てみます。共通一次試験からセンター試験になってから新課程入試は3回行われています。1997年、2006年、2015年と2016年です。2015年は数学と理科だけが新課程科目で実施され、それ以外の科目は翌2016年からの実施でした。主要な科目のみですが過去の結果を見ると総じて平均点は高めになっていると言えるのではないでしょうか<表>。ちなみに2006年は新課程入試でもあり、リスニングの導入初年度でもあります。この年の受験生は本当に大変だったと思いますが、これらの平均点を見ているといくつか気になるところがあります。

【大学入試センター】志願者数・受験者数・平均点の推移
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/suii/

新旧課程の科目間で大きな平均点格差があった年度も


 まず1997年を見ると国語、世界史B、地理B、倫理、物理ⅠB、英語の平均点が70点前後と高くなっています。数学ⅠAと数学ⅡBも受験生にとってはまずまずの結果です。問題は旧課程の数学Ⅰと数学Ⅱです。特に旧数学Ⅱは新課程科目の数学ⅡBより-20点以上も低くなっています。明らかに問題難度に差があったのですが、得点調整をしないことが事前に決まっていたためこの差は放置され、大きな社会問題となりました。その後、センター試験で新旧課程の科目間を得点調整の対象としているのは、恐らくこの時の事が生かされているのだと思います。

 次に2006年を見ると倫理、生物Ⅰ、物理Ⅰの平均点が高く、実施初年度の英語リスニングも70点超えの高い平均点となっています。数学ⅠAと数学ⅡBの平均点も受験生からみればまずますの点数だと思います。この年の数学は旧課程生用の問題は新課程科目との選択問題として出題されていました。

 その次の新課程入試は2015年です。大学入試センターのサイトで公表されていてる平均点からは分からないのですが、この年は科目間で平均点差が生じたために得点調整が行われています。公表されている点数は調整後の点数です。この年は旧課程の物理Ⅰの平均点69.94点に対して、新課程の生物の平均点が48.39点でした。そのため、得点調整が行われ、表中の新課程・物理、新課程・化学、新課程・生物、旧課程・化学Ⅰ、旧課程・生物Ⅰは得点調整後の平均点となっています。

 なお、新課程・地学の平均点40.91点の低さが際立ちますが、受験者数が1万人未満の科目は得点調整の対象としないルールが適用され、対象外とされています。このルールは現在も同じです。ただし、来年の新課程・情報Ⅰと旧課程・情報は受験者数が1万人未満でも得点調整の対象とすることが既に公表されています。

 こうして見ていくと、確かに新課程入試では平均点が高くなる傾向があると言えます。

参考:【旺文社 教育情報センター】今月の視点 2015.3 センター試験の『得点調整』!
https://eic.obunsha.co.jp/viewpoint/2015/20150301/

来年は新旧両課程も含めた手厚い得点調整

 来年、2025年度の得点調整については、大学入試センターから7月10日に公表された「受験案内」で詳しく説明されています。
地理歴史と公民は、新旧両課程を含めた各科目間で平均点差があった場合に得点調整が行われます。数学は新旧課程の科目間での平均点差が調整の対象となります。理科は旧課程科目がありませんので新課程科目間での平均点差が調整の対象です(旧課程生用の選択問題が出題される場合があると説明されていますので多分そうなります)。これらは現在と同様に受験者数が1万人未満の科目は得点調整の対象としませんが、「情報Ⅰ」と「旧情報」はいずれかの受験者数が1万人未満であっても得点調整の対象とされています。

 得点調整の実施条件は、試験問題の難易差に基づくものと認められる場合で、‐20点以上の平均点差が生じた場合、あるいは‐15点以上の平均点差が生じ、かつ段階表示の区分点差が20 点以上生じた場合となっています。区分点差とは、各科目の成績の段階表示(スタナイン)の各段階の境目となる、上から4%、11%、23%、40%、60%、77%、89%、96%の分位点(得点)の差を指します。これまでになく充実した対応が行われますので、旧課程生は制度上での不安がかなり低減されます。

 ただ、少し分かりづらい点があります。それは時間割上での「物理基礎/化学基礎/生物基礎/地学基礎」と「地理総合/歴史総合/公共」の扱いです。注釈では60分で“2つの出題範囲”を選択解答することになっています。しかし、昨年の注釈では「物理基礎/化学基礎/生物基礎/地学基礎」については、60分間で“2科目”を選択解答せよと記されています。昨年は「物理基礎/化学基礎/生物基礎/地学基礎」が他の理科とは別の試験時間帯で設定されていましたので“科目”と表記していたと思われます。しかし、2025年度は理科として1つの試験時間帯で行われます。地歴公民と理科は、第1解答科目・第2解答科目という区分けがありますので、それと区別するために“出題範囲”としていると思いますが、出題範囲と言いつつも実際は科目ですので、時間割だけを見ていると、1科目に60分使って解いても良いとも読めます。

 実は「受験案内」の最初のページで「物理基礎/化学基礎/生物基礎/地学基礎」と「地理総合/歴史総合/公共」はそれぞれ1科目だと読めるような説明がされていますので、それを読めば2科目で60分の試験時間だと理解できると思いますが、“出題範囲”という表記のため少し分かりづらくなっています。大学入試センターから「それは読解力の問題だ」と言われそうですが、従来からの共通テストを知っている立場では自明のことでも、初めて見る場合には少々迷いが生じます。受験の常識を皆が理解していれば良いのですが・・・。

参考:【大学入試センター】令和7年度大学入学共通テスト「受験案内」「受験上の配慮案内」の公表について
https://www.dnc.ac.jp/news/nid00000372.html

神戸 悟(教育ジャーナリスト)

教育ジャーナリスト/大学入試ライター・リサーチャー
1985年、河合塾入職後、20年以上にわたり、大学入試情報の収集・発信業務に従事、月刊誌「Guideline」の編集も担当。
2007年に河合塾を退職後、都内大学で合否判定や入試制度設計などの入試業務に従事し、学生募集広報業務も担当。
2015年に大学を退職後、朝日新聞出版「大学ランキング」、河合塾「Guideline」などでライター、エディターを務め、日本経済新聞、毎日新聞系の媒体などにも寄稿。その後、国立研究開発法人を経て、2016年より大学の様々な課題を支援するコンサルティングを行っている。KEIアドバンス(河合塾グループ)で入試データを活用したシミュレーションや市場動向調査等を行うほか、将来構想・中期計画策定、新学部設置、入試制度設計の支援なども行なっている。
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