文系・理系のさまざまな科目を、偏りなく横断的に学ぶ文理融合型の学びで、「総合知」の創出をめざしている、同志社大学の“文化情報学部”。

今回は、その中で「ことばの科学」「統辞論」「言語と脳科学」の授業を担当されている理論言語学研究室の星 英仁准教授に、詳しくお話をうかがった。

 


日常に当たり前に存在する「言語」をさまざまな角度から研究する「理論言語学」の世界

日常生活の中で、私たちの話す「言語」は存在自体が当たり前すぎて、普段はなかなか気に留めることがないものかもしれません。では、一つ一つの語を組み合わせた記号列が文になり、それを話したり理解したりするとき、私達の頭の中では一体何が起こっているのでしょう?そのメカニズムを明らかにしようとする学びが、星准教授が研究されている「理論言語学」という学問です。

「例えば、『太郎はを修理した。次郎も修理した』という文を日本語の母語話者が聞いたとき、『次郎も車を修理した』と発話されていなくても、次郎が修理したものは『車』であることを頭の中で補って解釈することができます。次に『太郎は自分の車を修理した。次郎も修理した』という文では、いかがでしょう?この場合、次郎が修理したものは『太郎の車』と『次郎の車』の2通りの解釈ができるのではないでしょうか。しかしながら、『太郎は自分の車を修理した。次郎も自分の車を修理した』と省略されていたものを発話した文にすると、次郎が修理したものは「次郎の車」という解釈しかできません。これは非常に不思議な現象です。省略されて頭の中で補っているときは2つの解釈があるのに、省略せずに発話すると1つしか解釈ができなくなってしまいます。これは誰に教わったわけでもなく、日本語の母語話者であれば容易に判断できますが、なぜそうなのかと問われると、多くの人は答えに窮してしまうでしょう。なぜそうなっているのかについて明らかにすることこそが「理論言語学」なのです。

実は言語の中には、全く異なる言語同士なのに似ていたり、逆にその言語にしかない特有の特徴があることも。例えば、日本語と同じように比較的語順が自由な言語とされているのがトルコ語やハンガリー語。また、主語を省略できる特徴を持つ言語としては、日本語はスペイン語やイタリア語とも共通性を持っています。その一方、日本語には他の言語には見られない特有の受身文があることも指摘されています。「理論言語学」では、このようにさまざまな言語と比較することで、言語の一般的な特性を明らかにしていく研究も行っています。」

言語学の学びを通して身につく
細かい観察力と論理的思考

「言語学では、1年次生を対象とした『ことばの科学』、2年次生を対象とした『統辞論』、3年次生を対象とした『言語と脳科学』という授業を担当しています。研究対象が言語という、私たちにとって身近で当たり前のものだからこそ、細やかな観察力と、なぜそのようになっているのかという根本的な問いを立てる姿勢が求められます。また、さまざまな仮説を検討し、議論する力も不可欠です。こうした言語研究のトレーニングを通じて培われた観察力と論理的思考こそが、実社会においても、解決すべき問題を発見し、新たなアイデアを提供しながら、論理的なプロセスで問題を解決するために大いに役立つと確信しています。」

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大学ジャーナルオンライン編集部

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