2020年度から国の支援である「高等教育の修学支援新制度」が始まり、家庭の経済状況にかかわらず、進学意欲があれば進学できるようになりました。さらに、2024年度からは、多子世帯(扶養する子供が3人以上いる世帯)や私立理工農系の学部等に通う学生の中間層への支援を拡大。2025年度からは、多子世帯の学生等について、年収制限なしで授業料・入学金が減免となることが決まりました。国の支援とは別に、少子化対策・子育て世帯支援の目的もあり、各都道府県が独自に行っているのが、「公立大学の授業料無償化」です。現時点では、東京都立大学、大阪公立大学、兵庫県(兵庫県立大学・芸術文化観光専門職大学)が発表しています。2023年度に詳細が発表されていますが、現時点で「地元占有率」「志願倍率」「難易度」において、どのような変化があったのかをレポートしていきたいと思います。

 

2024年4月入学者の「地元占有率」は上がったのか?ーーー5年間で見ると、兵庫県立大学と芸術文化観光専門職大学で上昇

 2023年度に東京都立大学、大阪公立大学、兵庫県(兵庫県立大学・芸術文化観光専門職大学)の授業料等無償化が発表されたあとに行われた2024年度入試では、地元占有率は上がったのでしょうか?受験者の比率は発表されていませんが、入学者は発表されていますので、5年間の推移(表①)を調べてみました。前年と比較すると、どの大学も地元占有率は上がっているのは分かりますが、5年間すべてを見ると、上がったのは兵庫県立大学と芸術文化観光専門職大学ということが分かります。発表直後の入試で、過去問題などの対策ができていなかったという理由や、2024年度については無償化の対象学年が少ないという理由が考えられます.。2025年度入試については、授業料無償化の認知も広がり、もう少し地元占有率があがるのではないかと予測されます。
※地元占有率=全入学者のうち出身高校所在地の都道府県が各公立大学所在地と同じ入学者の割合

2024年度入試の「志願倍率」は上がったのか?ーーー5年間で見ると、兵庫県立大学の中期日程のみ倍率上昇

 志願者倍率についても、5年間の推移(表②)を出し、2024年度入試がどうだったのかを調べてみました。結果としては、中期日程のある大阪公立大学と兵庫県立大学の志願倍率は上昇していますが、前期日程と後期日程については、どの大学も志願倍率の大きな上昇は見られませんでした。志願倍率が高くなりすぎれば、合格しづらいと考え志願者が減少し、低くなれば志願者が増えるという隔年現象もおきますので、通常は志願倍率が上がり続けるというのは考えづらいです。しかし、授業料無償化は、はじまったばかりなので、連続して倍率が上がることもあり得ると予想されます。

 国公立は前期日程で3倍前後の志願倍率の大学が多いのですが、東京都立大学は5倍を超えています。全国で見れば、国公立大学前期は第1希望が多く「合格者≒入学者」になっている大学が多いのですが、首都圏は少し特殊で、早慶など私立上位大学が近くにあるため、国公立大学を第2希望・第3希望とする受験生が存在しています。そのため、東京都立大学は、実質倍率は3倍前後であったとしても、志願者倍率は高くなっています。

2025年度入試の「偏差値」は上がったのか?ーーー前年との比較では、兵庫県立大学のボーダーと偏差値の上昇が見られる

 2024年度入試と2025年度入試の河合塾「共通テストボーダー得点率」と「2次偏差値」を調べてみました。河合塾の募集単位で出ている数値の単純平均をとって、各大学ごとに比較できるようにしました(表③)。結果としては、兵庫県立大学の中期日程と後期日程以外は、それほど上昇していませんでした。東京都立大学は、2次選抜で「英語」が追加されている学部学科が多く、2教科から3教科になっているため、偏差値を昨年と単純比較することはできません。科目が増えているのに偏差値が同じということは、難しくなっているともいえるかもしれません。

東京都民対象 東京都立大学授業料無償化は、2024年度入学生から全学年で無償化の対象となっている

 東京都立大学に関して、以前から行っていた都独自の支援は、年収目安478万円未満は授業料全額免除、478万から674万円未満は授業料半額免除でした。2023年10月13日の発表では、2024年度より東京都民を対象に「年収目安910万円未満世帯の場合、授業料を全額免除」「扶養する子が3人以上の多子世帯の場合、年収目安910万円以上でも半額免除」でした。これでもかなり対象者が増えるわけですが、2024年1月6日には、「年収制限の撤廃」と発表され、全員が授業料無償となりました。入学料については、この対象にはなりませんので、東京都民も14万1000円は必要になります。都民以外は、入学料も授業料もかかりますので、初年度納入金は80万2800円となります。4年間で見ると、東京都民14万1000円に対して、都民以外236万5200円と大きな差になっています。

【東京都公立大学法人】東京都立大学の新たな授業料減免制度 ~都内子育て世帯への新たな支援を実施(授業料実質無償化)~
https://www.houjin-tmu.ac.jp/topics/topics14396/

大阪府民対象 大阪公立大学授業料等無償化は、2025年度入学生は2年生から対象となる(1年生は現行制度)

 大阪府は、国の支援と組み合わせることで、年収目安590万円未満は授業料無償に、590万から910万円未満は世帯年収や子どもの数に応じて、授業料の1/3や2/3の支援を大阪府独自の支援として実施していました。ここから、年収や子供の数などの条件を撤廃して全員を無償化する素案が発表されたのが、2023年5月9日。入学時からすべて授業料が減免になるのは、2026年度からになりますが、2025年度入学の1年生は現行制度の適用となるものの、2年生から全員が授業料全額減免になります。東京都立大学は入学金は減免されませんが、大阪府立大学は入学金も含めて減免されますので、諸経費などは掛かりますが、完全無償化と言えます。

【大阪公立大学】【大阪府の支援】大阪公立大学等授業料等支援制度
https://www.omu.ac.jp/campus-life/tuition/financial_aid/osaka-pref/

兵庫県民対象 兵庫県立大学授業料等無償化は、2025年度入学生は2年生から対象となる(1年生は現行制度)

 兵庫県は、国の支援と組み合わせることで、年収目安400万未満を授業料無償、400万から500万未満を授業料半額の県独自支援を行っていましたが、2023年8月4日に兵庫県立大学と芸術文化観光専門職大学を対象として年収制限を撤廃した授業料等無償化の発表がありました。東京都と大阪府との違いは、大学院博士課程まで無償になる部分です。もしも博士課程まで進学すると合計9年間となります。入学時からすべて授業料が減免になるのは、大阪府と同様に2026年度からになり、2025年度入学の1年生は現行制度の適用となるものの、2年生から全員が授業料全額免除になります。兵庫県の公立2大学も、大阪公立大学と同様に入学金も減免されるので、諸経費などはかかりますが、完全無償化と言えます。

【兵庫県】県立大学の無償化
https://web.pref.hyogo.lg.jp/kk35/kennritudaigakumushouka.html

2025年度以降も、大きな話題になりそう

 2025年は、東京都議会議員の選挙があります。授業料無償化は興味を持つ人も多いため、東京都立大学のことも引き続き話題になりそうです。

 大阪公立大学については、2025年秋に森之宮キャンパスが新設されます。全学部の基幹教育が、この新キャンパスで行われるということで、大阪府内だけでなく全国からも注目されるトピックとなっています。また、2028年春には、地下鉄「森之宮新駅」ができる予定になっており、駅前キャンパスとなります。

 兵庫県の県立2大学は、県民に対する授業料等無償化だけでなく、県外の人に対しても入学金を減額しています。芸術文化観光専門職大学は、1年次全寮制という特徴もありますので、入学金の減額は県外生にもうれしい内容です。また兵庫県立大学工学部は2026年度より改組と同時に入試変更も行う予定になっています。

 今後も、他の公立大学も含めて変化がありそうですが、授業料等の無償化については、少子化対策や子育て支援として行っていることなので、効果が見えるまで長く続けてほしいと思います。今後も、授業料の無償化による変化についてレポートしていきます。

大学ジャーナルオンライン編集部

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