大学における英語教育のあり方については、大学入試制度とともに長らく議論の対象となってきました。大学入学共通テストへの4技能評価の導入は立ち消えになった今、生成AIの登場は次の議論を予感させます。大学や高校の現場で英語教育に携わる京都大学准教授 金丸敏幸先生と滋賀県立伊吹高等学校英語科教諭 南部久貴先生に、大学・高校の英語教育およびその結節点となる受験英語についてお聞きました。

 

教育現場でのAIの活用

金丸 生成AIは英語の基礎の習得には不向きですが、応用や実践の場では大いに役立ちます。AIと対話することで、これまでとは違った方法で英語力を鍛えることができますから、特に大学生や社会人にとっては、数年後には一般的な学習手段になるのではないでしょうか。AIは学習者のレベルやテーマに応じて柔軟に対応できるため、例えば、AIとコミュニケーションする中で、学生が自ら発信したいことを工夫すれば、英語を「使う」力を自然に養うことができます。

南部 私の高校では、主に英作文のフィードバックで生成AIを活用しています。以前は、生徒が手書きで提出したものに教師がフィードバックしていましたが、今はAIと生徒の間の対話でそれが成り立ちます。生徒が課題を提出すると、AIがその内容の単語や構文の誤りを訂正し、ある程度意図をくみ取って応答してくれるため、個別対応がとても楽にできるようになりました。ある時、生徒が「siatre」と誤入力したものを、AIが「theatre」と訂正したのには驚きました。まるで生きているかのようですね。

金丸 AIを使うことで、インプット量を増やすこともできます。中学校や高校では、英語のやり取りをALTの先生に頼る部分もありましたが、生成AIの導入で一人の生徒が英語と触れ合う機会はより増えるでしょう。一人ずつにALTの先生がいるようなものなので、英語でやり取りするだけでなく、自分の使う英語について質問したり、訂正してもらったりすることも可能です。この延長線上で、大学では自分から英語を「使い」、「学ぶ」という姿勢で英語学習に取り組むことが大事になっていきます。

南部 AIのおかげでワークシート作成などの事務的な負担が軽減され、10分休みの時間に次の授業の準備ができるようになったことも大きいですね。今後、生成AIでベテラン教師のノウハウを再現できるようになれば、新人でもベテラン同様のクオリティの高さで授業を提供できるようになるかもしれません。

大学、大学入試と英語教育

金丸 高校で進化した英語教育を受けたにもかかわらず、大学に入った途端にこれまでの英語教育に戻るようでは学習者にとって不幸です。大学側は現在の教育を、指導や制度の面でもアップデートする必要があります。これから大学に進学する生徒たちはAIネイティブ世代と呼ばれるでしょうが、彼らに合わせたやり方や生成AIなどの技術を考慮して、英語スキルを上げていかなければならないでしょう。大学入試の内容も、高校の教育方針と連携しながら再考することが必要かもしれません。

南部 大学入試は高校生の学習を大きく左右します。日ごろのスピーキングやライティング対策に生成AIはとても有用ですが、入試を意識すると、受験英語に特化した学習も避けられません。生成AIを活用しつつ、受験に必要な知識や対策も取り入れるバランスが必要で、高校現場での指導のあり方もこれからさらに問われていくでしょう。

【2024年5月26日@京都大学金丸研究室】

京都大学

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