「能登半島地震」から1年。師走間近の11月25日時点で、いまだに断水が続く家屋が901戸。早期復旧困難地区や9月の豪雨災害の影響を含むとはいえ、基本的なインフラ復興が未整備であることが分かります。このままの状態では大雪・落雷による多重災害の恐れもあります。11月26日、能登地方で最大震度5弱の揺れを観測して以降、28日までに計71回となった石川県西方沖を震源とする地震群も関連地震として気がかりです。

 

災害関連死激増の懸念

 2016年4月の「熊本地震」では、直接死50人、災害関連死218人、豪雨による二次災害死5人、計273人の方が亡くなられました。災害関連死というのは災害によって負傷が悪化したり、避難生活等の身体的負担による疾病で死亡した方を言います。「熊本地震」の死者273人は、およそ2024年3月13日時点、つまり、地震発生から8年後ですので、地震後8年間の間に、直接死の4倍もの災害関連死が生じたことになります。【1】。

 「能登半島地震」では、11月27日時点での石川県の地震によるいわゆる直接死が227人、災害関連死が247人(新潟、富山6人含む)。合わせて474人と報じられています【2】。つまり1年間で「熊本地震」7年分を上回る災害犠牲者が生じたことになります。これは大変なことです。

 11月12日、私立大学連盟(『大学時報』)主催、「ともに復興へ。大学がつなぐ復興へのバトン。-阪神・淡路大震災から30年-(仮題)」と題する座談会が兵庫県内で開かれ、私も「能登半島地震」に近い大学関係者として4人のメンバーの中に加えていただきました。その席上、長年日本の災害を研究されてこられた関西大学社会安全研究センター長の河田恵昭教授は、「能登半島地震」はこれから災害関連死が激増するのではないかとの深刻な懸念を表明されました【3】。

【1】「熊本地震から8年 死者の8割を占めた災害関連死の教訓から学ぶ」(2024.11.25取得)
https://weathernews.jp/s/topics/202404/050215/
【2】北陸中日新聞、2024.11.28、1面
【3】この模様は、「ともに復興へ。大学がつなぐ復興へのバトン。-阪神・淡路大震災から30年-(仮題)」として、私大連『大学時報』2025年1月号に掲載予定。

私たちができること

 熊本県によると、「熊本地震」の災害関連死221人の原因区分では、①「地震のショック、余震への恐怖による肉体的・精神的負担」が112人(40%)と最も多く、②「避難所等生活の肉体的・精神的負担」の81人(28.9%)、③「医療機関の機能停止等(転院を含む)による初期治療の遅れ(既往症の悪化及び疾病の発症を含む)」の14人(5%)、④「社会福祉施設等の介護機能の低下」の9人(3.2%)(複数回答のため計280件)の順でした【1】。 これらの①~④は、「能登半島地震」においては、熊本よりもいっそう深刻でかつ過酷な状況にあるのではないかと推測されます。医療面の手厚いサポートは不可欠ですが、それには一定の限界もあります。

 熊本では、災害関連死を防ぐためのポイントとして次の5つが例示されています。

(1)できる限りの水分と食事の補給(トイレ対策も)
(2)エコノミー症候群対策(少しでも体を動かす)
(3)感染症対策と口腔ケア
(4)ストレスのケア
(5)服薬の継続(処方薬を備蓄)

 つまり、これならば必ずしも医療関係者でなくとも、傍にいて見守る、あるいは話し相手になるなど、幾分のお手伝いが可能かもしれません。

 11月28日の地元紙面では、地震に引き続く余震、豪雨、さらには冬場の大雪や落雷の恐れも懸念されることから、「もう能登には住むなというのか」【4】、「また心が折れた」「また元日のようになるのか」「今までが幸せすぎたのか」「地震が怖くて学校に行けない」【5】など、子どもたちから高齢者に至るまで人々の切ない嘆きが紙面を埋め尽くしています。

【4】北國新聞、2024.11.28、1面 「時鐘」
【5】北陸中日新聞、2024.11.28、1、25面

We are with you

 さて、この1年間、本学のボランティア活動は様々な場面で活発に展開されてきました。学長として、学生、教員、職員、またご協力くださいました地域の方々、関係者に心から感謝と敬意を表したいと思います。私はどのようなものであれ、ボランティア活動それ自体が尊いとは思いますが、警察や消防、あるいは自衛隊等とは異なって、私たちは様々な技能、多様かつ専門的な実力を持つ集団ではありません。また学生さん方も若くて体力があるとはいえ、指示された特定の作業をこなすボランティアだけでは、学生の学びにつながるボランティアの意味合いが薄れてしまうかもしれないと考えています。

 私は学生たちが現場に赴き、そこで何が問題なのかを発見し、その問題を解決可能な課題に設定し直し、その成果を見極めながら、次に向けて修正・実行するというPDCAサイクルを自ら考えて実行するという点に教育的意味があるように思います。そのことによって、生きた現場に即応した問題発見・課題解決能力を身につけることができます。またボランティア活動を通して、自分が社会の一員であり、自分の存在や興味をもって学んでいる学問が社会を少しでも良くすることに結びついていることに気づくことで、学生は自らの存在理由を確認しつつ、人間的成長に大きく結びつくと考えています。

 金沢星稜大学の学生の皆さん、教員、職員の皆さん。引き続き、個人や友人同士、ゼミやサークル、部活、職場単位など、折を見て様々な能登丸救援・支援に出かけましょう。天候や現地の状況、自分たちの体力やボランティア技能に合わせて、無理のない範囲で。We are with youで…。そのことで、もし一人でも災害関連死を防ぐことにつながれば、あるいは人々に笑顔が戻るなら、こんなにうれしいことはありません。

 本学では、中期計画に「能登半島の創造的復興とともに歩む」と明記して、今後も引き続き「能登半島の創造的復興」に努力してまいります。またボランティア活動を全面的に支援いたします。詳しくは本学SDGs産学連携地域連携センターまで相談ください。

【引用】金沢星稜大学 学長コラム2024.12.1『能登応援メッセージ:「災害関連死を防ぐ-Seiryoボランティアへの思い」』

金沢星稜大学

大久保 英哲 学長

1950年青森県生。1982年筑波大学大学院体育研究科修了。1997年博士(学術)。
盛岡大学講師、金沢大学助教授、教授。2015年名誉教授、金沢星稜大学特任教授。2020年金沢星稜大学女子短期大学部学長を経て、2022年より現職。専門は体育・スポーツ史。『明治期比較地方体育史研究』『纏足から天然足へ 日本統治前期台湾の学校女子体育』『箱根駅伝を超えようとした幻の能登駅伝』ほか著書・論文多数。スキー・スケート、テニス、ウォーキングを趣味とする。「学長コラム」「学長室の窓から」(~2024.3/短大部)を大学WEBで公開している。

 

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金沢星稜大学は、「誠実にして社会に役立つ人間の育成」という建学の精神の下、「自分を超える力をつける」を合い言葉に、学生たちの自主的な成長を促して支援しています。経済学部、人間科学部、人文学部の3つの学問領域で、多様化する社会に貢献できる人間を育成しています。[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

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