8学部17学科がワンキャンパスに集う玉川大学。東京都内に位置しながらも、緑豊かな環境に囲まれている。なかでも象徴的な緑地が、学生自身が木を植え創立時より長年継承してきた聖山(せいざん)だ。現在も学びのフィールドとして重要視されており、間伐や植樹などを行う「聖山労作」に多くの学生や教職員が参加している。活動の狙いや効果について、農学部環境農学科准教授・友常満利先生、芸術学部アート・デザイン学科講師・堀場絵吏先生、玉川学園総務部次長・北川昭一さんに伺った。
写真左から友常満利先生、堀場絵吏先生、北川昭一さん
学生自身が「守り、継承する聖山」
聖山労作は玉川学園90周年となる2019年から始まった。玉川学園の校歌が誕生した聖山には、学生が木を植え豊かな緑を築いてきた歴史がある。これは玉川大学の教育理念である全人教育の教育信条の一つ、「自然の尊重」や「労作教育」の表れだといえよう。しかし木を大事にするあまり、やがて景色が見渡せないほどに木々が生い茂ってしまった。
「玉川学園校歌にもうたわれた『空高く 野路は遥けし』という聖山の眺望をよみがえらせようと、間伐などの整備事業に乗り出しました。コンセプトは『守り、継承する聖山』です。また、校歌の2番では、身体を動かし労作をしつつ、学びにも力を入れることがうたわれています。そのため聖山労作でも身体を動かす活動だけでなく、先生方から自然についてレクチャーしていただく学びの時間も設けています。」(北川さん)
「聖山労作は、一歩間違えればボランティア活動だと思われてしまうでしょう。しかし労作とは主体的創造活動のこと。自分の生活の場や教育の場を『こうしたい』と主体的に考えて行動することが狙いです。」(友常先生)
2024年度の聖山労作でリーダーを務めた堀場先生は、「総合大学の強みが活かされていた」と振り返る。
「各学部の教員が専門を活かしたプログラムを作成することで、循環型の里山サイクルを多角的に学ぶ貴重な機会となりました。」(堀場先生)
堀場先生は芸術学部に所属。授業でも聖山をフィールドにした空間デザインなどを教えている。2024年度の聖山労作では学生たちとともに、間伐材を活用した「聖山労作6周年記念プレート」を作成した。
「聖山で間伐されたヒマラヤスギを材料にしました。デジタル化が進む現代、あえてアナログな材料を使って活動を記録することには意義があります。木の温もりや経年変化の魅力をリアルに感じ取ってもらえるからです。」(堀場先生)
制作中の様子
完成した記念プレート
間伐によって森を元気に
聖山労作では木の間伐や植樹のほか、間伐材を利用した作品作り、バイオチャーと呼ばれる炭化物の散布などを行う。間伐の重要性を、友常先生は次のように語った。
「高齢化したブナ科の樹木が病気になり、枯れてしまうことがあります。すると倒木や落枝などの危険性が増すため、玉川大学のような都市緑地では管理が求められます。古い木を切り、新しい木を植えて森を若返らせていく循環が大切なのです。その結果二酸化炭素の吸収能力が高まるなど、生態系サービスが向上、地球環境の維持にも貢献できます。」(友常先生)
2024年度はバイオチャー散布の前段階である、炭焼きにも取り組んだ。無煙炭化器を使って間伐材を熱分解し、多孔質な炭へと変えていく。こうしてできあがったバイオチャーをチップ状にして土に撒くと、土壌中の微生物が活性化し、植物もより多くの二酸化炭素を吸収するように。この手法は地球温暖化対策の一環としても注目されている。友常先生は聖山もフィールドのひとつに、バイオチャー散布による森の二酸化炭素吸収量の変化などを研究している。
「森から出た材料で炭を作り、それをまた森に返す。森林大国の日本に適した循環を、聖山労作でいち早く実践しています。バイオチャー散布によって森林の二酸化炭素吸収量を上昇させれば、ゼロカーボンの先にあるマイナスカーボンも実現できると思います。」(友常先生)
聖山労作が学びに与える影響
聖山労作は森を元気にするだけでなく、学生の豊かな学びの養分にもなっている。堀場先生は「自然と触れ合う原体験が減っている都市部の学生にもぜひ参加してほしい」と語った。
「リアルな自然との対話を通して、他者や環境とのつながり、そして自分の行動が周囲にどのような影響を与えるのかを知ってほしいです。私が専門とする空間デザインに限らず、世の中には知識がなければ見えてこないことがたくさんあります。たとえば年輪を見てどこから日が当たっているのかを知るには、植物に関する知識が必要です。分野にとらわれず視野を広げ、社会課題を複合的に解決できる人になってほしいと思います。」(堀場先生)
「聖山労作の長所は、木を植え、育った木を切り、加工し、森に戻すというすべてのプロセスを学べるところだと思います。自分の行為の前後にある循環に気づき、主体的創造力を磨いてほしいです。しかも聖山労作では、すべての活動の根拠をきちんと説明しています。こうした学びを体験し、根拠ある創作活動のヒントを得てほしいです。」(友常先生)
実際に聖山労作に参加した学生は何を感じたのだろうか。芸術学部アート・デザイン学科2年生は「科学的な知見も交えながら体験でき、学びが深まりました」と回答。また、「学部学科、学年の垣根をこえて協力する姿に暖かさを感じました」と、他学部と交流しながら植樹などに取り組んでいた。
昨年に引き続き参加した芸術学部アート・デザイン学科4年生も「先輩方の取組のおかげでほどよい自然を身近に感じられる環境が受け継がれ、私たちが豊かな大学生活を送れているのだろうと思いました。今年の聖山労作での取組が、次世代につながると嬉しいです」と、継承されてきた聖山の価値を実感している。
聖山労作は毎年リーダーを担当する教員が変わる、バトンリレー形式。そのためプログラムの内容はリーダーの教員によって変動する。それでも堀場先生は、「より多くの子どもたちが自然に触れる機会を今後も提供したい」と願いを語った。
「今年度は、この他にも、学園キャンパスの間伐材を使って小学生向けのワークショップも開催しました。木に触れながら学びアウトプットしていく過程は、未来を担っていく世代にはとても価値があるはずです。」(堀場先生)
ワークショップの様子
木をきっかけに広がる人の輪
聖山労作以外にも玉川大学では木を使った取組を進めている。2022年4月よりスタートした「Tamagawa Mokurin Project」だ。低温乾燥させた間伐材を教材や建材に活用するほか、学内外で木に関する学内活動をつないでいる。
「新たに導入した低温乾燥装置を中心にして、キャンパスの自然と各自の活動をつなぎ合わせることがTamagawa Mokurin Projectの目的です。本学には木に関する活動をしている先生や学生が数多くいますが、以前は個々に進めていました。木をきっかけに人の輪を広げることで、未来の地球環境にも貢献したいです。」(北川さん)
「Tamagawa Mokurin Projectをきっかけに、ほかの先生方とアイデアを交わす機会が増えました。横のつながりがあると、新しいことにどんどん挑戦できます。一方で専門的な内容がどうすれば一般の人に伝わるか、私自身も考えさせられました。そうした教員の姿を学生たちが見ることで、新たな発想を得ていると思います。Tamagawa Mokurin Projectは研究と教育の双方に良い影響を与えてくれる取組です。」(友常先生)
総合大学の強みを活かし、豊かな自然を循環させている玉川大学。今後の聖山労作や、Tamagawa Mokurin Projectではどのような取組や作品が発表されるのか、期待が高まる。