『大学ランキング2026』が刊行された。同書は1994年に創刊、今年で32年目になる。わたしは縁があって創刊からずっと編集を担当してきた。約30年のあいだ、大学にはいくつか変化が見られた。
まずは大学の数だ。1994年は561校、2025年には796校になった。大学進学率が40.7%から59.1%(24年)まで上昇したことが大きい。18歳人口減少という逆風をものともしない勢いだ。
そして、これまであまり注目されなかった大学のランキングが上位にあがっている。
学長からの評価において、教育内容で金沢工業大、グローバル化で国際教養大、地域貢献と大学運営では共愛学園前橋国際大が1位になった。いずれも伝統校にはない取組が評価されたものだ。
国家試験合格者数でも専門性が高い医療分野において、知名度が高くない新興勢力が上位についている。はり師、きゅう師はいずれも帝京平成大が1位、森ノ宮医療大が2位だった。森ノ宮医療大の起源は1973年開校の大阪鍼灸専門学校にさかのぼる。柔道整復師で4位のSBC東京医療大は、2000年柔道整復師の了徳寺健二氏が作った了徳寺学園医療専門学校、了徳寺学園リハビリテーション専門学校が源流となっている。2006年、了徳寺大が開学した。当時は、存命する創立者名が大学名に付けられた唯一のケースだった。2024年、湘南美容クリニックが了徳寺大を買い取って校名を改称した。SBCはその略だ。大学の世界にもM&Aがめずらしくなくなった。
2023年、愛玩動物看護師国家試験が初めて行われた。愛玩動物看護師とは動物病院などで犬、猫、鳥類などペットといわれる動物を看護する専門職である。愛玩動物看護師国家試験合格者数2位のヤマザキ動物看護大は2010年に開学した。同大学の起源は1967年設立の専門学校シブヤ・スクール・オブ・ドッグ・グルーミング(のちに日本動物看護学院に改称)であり、2004年ヤマザキ動物看護短期大が開校している。
専門性が高い国家試験の合格者ランキング上位校には、専門学校、短期大学から四年制大学に発展してきたところが少なくない。大学はこれまで専門学校が担ってきた役割を、ますます果たすようになってきたとも言えよう。
『大学ランキング2026』を見ていちばん驚いたのは、医学部医学科の女子学生比率である。①聖マリアンナ医科大 53.7%、②東邦大医学部 51.9%、③兵庫医科大 49.3%、④佐賀大 48.8%だ(2024年度)。
医学部医学科で女子が男子を上回る大学を初めて見た。聖マリアンナ医科大の女子学生比率が非常に高いのは、2020年に発覚した一部の医学部医学科入試選考における女子受験生への不当な差別問題による影響が大きい。このなかには同大学も含まれている。2023年12月、東京地裁は聖マリアンナ医科大の入試選考において、女性を一律に減点する得点調整が行われたと認定し、「女性を差別するものであって、違法性は顕著」とし、慰謝料を求めた原告の元受験生4人全員に計約285万円を支払うよう大学に命じた。上記について、元受験生、大学いずれも控訴しなかったので判決は確定している。
なお、2020年の女子受験生差別の発覚後、多くの大学医学部医学科の入試選考が改善されており、聖マリアンナ医科大の女子入学者比率は21年度 63.5%、22年度 63.5%、23年度 55.7%、24年度 59.0%となった。
なるほど、つまり、こういうことであろう。聖マリアンナ医科大では男子比率が高かったころの学生が次々と卒業し、21年度以降の入学者の女子比率が高いことによって、大学全体で女子学生比率がいっきに高くなった、と。
さて、ランキングを作っていてもおもしろくなかったこともある。
資格採用試験、研究水準だ。国家公務員試験や司法試験、論文生産量(引用度)や研究費は東京大、京都大、早慶がめっぽう強い。これらのランキングは入試偏差値に収斂される向きがある。なかでも国家公務員総合職、科学研究費は新制大学発足以来80年近く、東京大がトップを続け、次に京都大、そして3位から7位までには北海道大、東北大、名古屋大、大阪大、九州大がひしめいている。ここに筑波大が入るかどうかといった構図であり、意外性はまったくない。
ただ、東京工業大と東京医科歯科大の統合で誕生した東京科学大がどこまで食い込めるかは注目される。いや、ランキング上位校になるために統合したという側面があり、帝国大学に起源を持つ大学を脅かさなければ、東京科学大の存在価値はないとも言える。
統合ということでは、大阪公立大が学生数、教員数など量的な側面で東京都立大学を凌駕し、公立大学トップとなっている。ただ質の面ではどうだろうか。地元の大阪大がびっくりするような研究成果をあげないと、大阪ナンバーワンの大学にはなれない。これまで大阪府がなりふり構わず進めてきたイケイケ政策を、大学運営にも示して、従来のランキングを攪乱することを期待したい。もっとも財源削減や教職員の管理強化などに力が向けられるようでは心許ないが。
教育ジャーナリスト
小林 哲夫さん
1960年神奈川県生まれ。教育ジャーナリスト。朝日新聞出版『大学ランキング』編集者(1994年〜)。近著に『日本の「学歴」』(朝日新聞出版 植木俊氏との共著)。