2023年12月、青山学院大学学長に就任した稲積宏誠学長は、「真摯な学び」を実践するため、大学院教育やリカレント教育の充実、データサイエンス拠点の整備などに取り組んでいる。青学らしさを大切にしつつ、新たなブランドを築くための思いや道筋を語ってもらった。
マクレイ記念館を中心に真摯な学びをさらに加速
青山学院大学は、一般的に「都会的」「おしゃれ」といったイメージが根強く、それが同校の魅力にもなっている。一方で、そのイメージが強いあまり、青山学院大学の「学び」や「研究力」が伝わりにくいことに稲積宏誠学長は危機感を覚えてきた。
「現在のイメージ自体は悪くないとしても、さらに少子化が進む将来を見据えて、新たなブランドを構築する必要があります。そのためのキーワードとして掲げているのが『真摯な学び』です」
青山学院大学の真摯な学びを支えているのが、充実したキャンパス環境にある。2024年4月、青山キャンパスに開館した「マクレイ記念館(図書館・情報メディアセンター)」は、時代とともに変化する学生のニーズに対応すべく、1つの建物の中に多彩な機能を持たせた。「『学生本位』というコンセプトのもとでデザインされたマクレイ記念館は、教育研究のための図書館や情報メディアセンターの機能を持ち、学生同士で学び合うラーニングコモンズや、学生が一人で思索にふけることのできる静寂ゾーンなども設えています。この場所が新たな『知の拠点』となり、青山学院大学の学びをさらに深め、広げ、実りあるものにしていきます」
図書館や情報メディアセンターの機能を持つマクレイ記念館
理工系と人文社会系を融合データサイエンスの学位プログラムを形成
充実した環境の中で学びを加速させるカギとなるのが、データサイエンスとAIの領域である。近年はデータサイエンスを専門的に学ぶ新学部や新学科を設立する大学が多いが、稲積学長は理工系分野と人文社会系分野を融合し、大学全体を活性化する領域として位置づけていくという。
「今、青山学院大学の中には、経済学部、経営学部、理工学部、社会情報学部にデータサイエンスの専門家が分散しています。この人的リソースをまとめて学際的な新学部を設立することも考えられますが、本学では人文社会系学部と理工系学部が協力して、データサイエンスの学位プログラムを形成しようとしています。私立大学としては珍しい試みです。これにより、学部間の横断的な教育・研究を進め、その成果を各学部に還元するという好循環をめざします」
データサイエンス系学位プログラムを構築することで、青山キャンパスと相模原キャンパスの連携を強めたいという思いもある。マクレイ記念館はその拠点としても活用される。
「例えば、文学研究でも大規模言語モデルを用いて解析を行うなど、今やデータサイエンスは文系理系問わずあらゆる分野に不可欠なもので、学びの可能性を広げることになります。図書館機能だけでなく、最先端のICT環境を備えたマクレイ記念館は、データサイエンスの拠点としても相応しいはずです」
近年は、大学院を中心とする研究・教育環境の充実にも注力している。特に理工学部では、昨年、大学院進学率が50%を越えた。学部での成績上位者に授業料全額または半額相当額を給付する理工学研究科特別給付奨学金制度を取り入れた。また、博士課程でも、学生が研究に専念できるように支援する「AGUフューチャーイーグルプロジェクト」といった研究環境の整備により、他大学からの入学者も増えているという。
「大学院が充実することで研究活動が活性化することはもちろん、大学院生がTA(ティーチングアシスタント)として学部生の学びをサポートし、後輩たちのロールモデルになるなど、学部教育にも還元されます。また、国際マネジメント研究科(MBA)や会計プロフェッション研究科といった社会人向け専門職大学院も高評価を得ています」
人文社会系は理工系に比べて大学院への進学率が低いため、卒業後の進路の問題を含む積極的な取り組みが必要になる。「日本では、人文社会系の修士人材の活躍の場が少ないという現状がありますが、グローバル社会では修士号、博士号の取得者が活躍できる場は広い。そのような分野の研究マインドを育むなど、文化を変えていくことも重要だと考えています」
〝青学らしさ〟が強みとなるサーバント・リーダーを育成
キリスト教信仰にもとづく教育をめざし、寛容でありながら力強さに満ち溢れたサーバント・リーダーとなる人材を育成してきた青山学院大学。ここで育まれた豊かな人間性にこそ〝青学らしさ〟があらわれていると稲積学長は話す。
「自分だけが前に出ようとすることはなく、コミュニケーション能力が高いところが青学生の魅力ですし、彼らのやさしさは校風にもあらわれています。一方で、自分で道を切り拓く強さが、アントレプレナーシップにつながっているのでしょう。大学としても、アントレプレナーシップ教育や卒業生とのネットワークづくりなどの支援策を進めてきました」
青山学院大学では、私立大学としては珍しく、2022年からサステナビリティレポート(中長期計画)を公表し、詳細な情報公開を行っている。そこには「イメージだけで評価されることが多い大学だからこそ、本当の姿を知ってほしい」という願いも込められている。
新たな青学ブランドを築くチャレンジはさらに加速していくが、それは長年にわたって培ってきた青山学院大学の『真摯な学び』を広く伝えるためのものである。マクレイ記念館が完成したことで、〝青学らしさ〟はさらに色濃く、力強くなり、多面的な広がりを見せるに違いない。
〈入試トピック〉26年度 理工学部総合型選抜「理工系女子特別入学者選抜」導入
青山学院大学理工学部では、教育・研究における多様性を高めることを目的として、2026年度より理工系の女子生徒を対象とした特別入学者選抜を導入する。募集するのは、物理科学科、電気電子工学科、機械創造工学科、情報テクノロジー学科の4学科で、各5名。理工学分野への高い関心と意欲を持ち、一定の基礎学力を備えた女子生徒が対象で、書類審査による第一次審査、基礎学力調査と面接による第二次審査によって選考を行う。
理工学部・研究科が設置されている相模原キャンパス
青山学院大学
稲積 宏誠学長
1956年 岡山県出身
1984年 早稲田大学大学院 理工学研究科機械工学専攻 博士前期課程修了
1989年 工学博士
2004年 青山学院大学 理工学部長
2010年 青山学院大学 社会情報学部長
2023年 青山学院大学学長