愛媛大学の西真之助教らの研究グループ(他に東京工業大学、東京大学など)は、地球マントル深部の超高温高圧環境で安定な、鉄・水・酸素からなる新しい結晶構造の水酸化鉄の存在を世界で初めて明らかにした。研究成果は国際科学雑誌『Nature』(オンライン版)に発表された。
地球内部に貯蔵できる水の質量は地球表層の海水の数倍とも見積もられる。水は地球表層で岩石と反応して含水鉱物を作り、プレートの沈み込みにより地球深部のマントル(深さ30~2,900キロメートル)へ運ばれる。しかし、水輸送を担う水酸化鉄(含水鉱物の一種)は、深さ1,900キロメートルに対応する80万気圧で脱水分解し、それ以上の深さに水を運ぶことはできないとされていた。
今回、研究グループはスーパーコンピュータ「京」などで量子力学に基づく理論計算を行い、80万気圧付近で水酸化鉄が分解するのではなく、パイライト(黄鉄鉱)型結晶構造に変化することを予測。大型放射光施設SPring-8において超高圧発生装置を用い、水酸化鉄に地球マントル深部に相当する高圧力をかけ、理論予測された結晶構造変化とその構造中の水素の存在を実証した。
この結果は、地球マントル深部で水酸化鉄が脱水分解するという従来の学説を覆す発見であり、地球深部における水の役割と循環の解明が期待される。今回実証した新しい構造の水酸化鉄は、マントルと中心核の境界の高圧力下でも安定に存在する可能性が強く、地球深部における水の大循環やマントル核境界でのマントル上昇流(プルーム)の発生、また地球中心核の主要物質である溶融鉄への水の溶け込みなど、地球深部の物質構成や運動に大きく影響すると考えられる。