群馬大学の村上正巳教授らの研究グループは培養した血管内皮の細胞に甲状腺ホルモンを作用させた際に細胞がどの程度血管組織の中を移動するのかを測定し、血管修復のメカニズムを解明しました。
甲状腺ホルモンは様々な臓器に作用しますが、今回注目したのは血管内皮細胞へのはたらきです。血管内皮細胞は血管の内側が損傷を受けた際にその箇所まで移動して修復を促すことが知られています。動脈硬化の初期段階では血管の内側を覆っている血管内皮細胞の機能が低下することも分かっています。この働きには甲状腺ホルモンが関与していると考えられていますが、まだ詳細は明らかになっていませんでした。
甲状腺からは主にT4と呼ばれるホルモンが分泌されます。T4自体のホルモンとしての活性は乏しく、酵素によってT3という物質に変化することでその機能を発揮することが分かっています。通常のT3の役割は遺伝子に働きかけて、細胞の活動に必要なタンパク質の合成を調節することです。しかしT3が作用してからタンパク質が合成されるまでには数時間もの時間がかかります。今回の研究ではまず血管内皮細胞にT4を作用させることで細胞の活動の様子を調べました。その結果、数分間という短い時間で細胞が活性化していることが分かりました。これは遺伝子への働きかけやタンパク質合成の調節という段階を介さずに、直接血管内皮細胞を活性化していることを意味します。
これにより甲状腺ホルモンが血管内皮細胞に直接働きかけることで細胞の移動を促し、血管の修復に関与している可能性が示されました。今後はこうした甲状腺ホルモンのこうした働きを利用して動脈硬化の新たな予防・治療法につなげていくとしています。