名古屋大学細胞生理学研究センター/大学院創薬科学研究科の阿部一啓准教授、藤吉好則客員教授らの研究グループは、消化にとって重要な胃酸分泌を担う胃プロトンポンプの構造を原子レベルで解明することに成功した。
我々が食物を摂取すると、胃酸が分泌され、胃の内部はpH1という、非常に酸性度の高い状態になる。細胞の内部が中性(pH7付近)であることを考えると、胃の内部とのpH差は非常に大きい。胃内部の強酸性環境を生み出す胃プロトンポンプが、なぜこのような強酸性環境を作り出せるのかという問題は40年以上も未解決の謎だった。
今回、研究グループは、ヒト由来の培養細胞を用いて人工的に胃プロトンポンプを発現させ、ここから大量に調製した胃プロトンポンプを使って3次元結晶を作成し、大型放射光施設Spring-8のX線マイクロフォーカスビームを利用して回折データを取得することにより、胃酸抑制剤が結合した結晶構造を原子レベルで解明することに成功した。胃酸抑制剤は胃プロトンポンプのイオンの通り道にすっぽりとはまり込み、ブロックすることで活性を阻害していることが分かった。また、胃イオンポンプのイオン結合サイトのアミノ酸の違いや構造によって、他のイオンポンプでは達成できない強い酸性環境を胃の内部に作り出す仕組みを構造解析により初めて明らかにした。
本成果は、2018年4月5日付(日本時間午前2時)英国科学雑誌「Nature」オンライン版に掲載された。