シマリス、ヤマネなどの小型冬眠哺乳類は、数ヶ月に渡る冬季のあいだ、深冬眠と呼ばれる10℃以下の低体温状態と37℃付近までの急激な復温による中途覚醒を繰り返している。
このような長時間の低温や急激な復温は、私たちヒトやマウスなどの冬眠しない哺乳類には致命的なストレスとなるにも関わらず、冬眠哺乳類はなぜ耐えることができるのか、その仕組みは殆どが不明だという。
今回、北海道大学と東京大学の研究グループは、小型冬眠哺乳類であるシリアンハムスターを対象に、細胞レベルでの低温耐性機構を調べた。その結果、シリアンハムスターは高濃度のビタミンEを肝臓に保持することで低温耐性を発揮していることがわかった。
まず、シリアンハムスターの肝臓の細胞(肝細胞)は、マウスの肝細胞ならば死亡するような低温下であっても生存可能な強い低温耐性を有することが確認された。しかし、不思議なことに、肝細胞の低温耐性はハムスターに与えていた餌の種類によって消失したり出現したりした。研究グループはこの違いを検討したところ、ビタミンEの一種α-Tocopherol(αT)が少なめ(ただし通常条件下での生存には影響しないレベル)の餌で飼育されると肝細胞が低温誘導性の細胞死を生じることが突き止められた。
一方、マウスの場合は、αT量が多い餌で飼育しても肝細胞に低温耐性は賦与されなかった。そこで、肝細胞や血中のαTを比較したところ、シリアンハムスターはマウスの10倍以上高濃度でαTを肝細胞や血中に保持することが判明した。αTは脂質過酸化を防ぐ作用が知られており、ここから、シリアンハムスターは肝細胞や血中でαTの濃度を高く保つことにより、低温と復温に伴う脂質過酸化反応と細胞死を阻止している可能性が示唆された。
本研究で明らかとなった低温耐性のメカニズムは、移植医療における臓器傷害の軽減などにも応用展開が期待されるという。