近年の日本人の名前は、日本語を母国語とする人であっても、初見で正しく(命名者によって与えられた通りに)読むことが難しいとの指摘がある。しかし、正しく読むことがどの程度難しいのか、どのように難しいのかについては、実際の名前データを用いて十分に検討されてこなかった。
そこで、今回、東京理科大学の荻原祐二助教は、2004年から2018年に生まれた新生児の実際の名前約8,000件を網羅的に調査し、各表記の読み方の種類数とその割合を分析し、日本人の名前を正しく読むことの難しさを組織的かつ実証的に検討した。
その結果、例えば、「大翔」という表記を持つ新生児435人には18種類、「結愛」という表記を持つ新生児259人には14種類の読みが少なくとも存在し、その読みは、発音や長さ、意味がそれぞれ大きく異なっていることがわかった。読みのパターンには、「漢字の意味やイメージから連想される読みを与えるパターン」、「漢字が加わっていても、漢字の意味やイメージのみを加えており、読まれないパターン」、「漢字の一般的な読みを短縮するパターン」、「漢字が持つ意味を外国語(英語、ラテン語、フランス語など)にして読むパターン」などが存在し、個性的な名づけが行われていることが判明した。
他国と異なり、日本では名前に使用できる漢字の読みに制限がなく、自由に読みを与えられる点が名前を正しく読むことを難しくする。実際に、近年の新生児の名前は、一般的な表記であっても、漢字の読みに個性的なものも含めた多くの選択肢があるため、命名者に与えられた通りに初見で読むのは難しいことが示された。
この知見は、日本だけでなく、東アジアや東南アジアなどの漢字文化圏における名前の特徴や名づけの習慣の理解に貢献すると期待される。