筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構のミハエル・ラザルス准教授らの研究グループは、レム睡眠量を減少させると、ショ糖や脂質など、肥満につながる食べ物の過剰摂取が引き起こされる原因の一端を明らかにした。

 睡眠不足の人は、十分な睡眠をとっている人に比べて、体重を増加させる嗜好性の高い食品をより多く摂取し、太りやすくなる傾向がある。特にレム睡眠が不足すると体重が増加することも報告されてきた。
しかし、睡眠不足になると高カロリーの食品がほしくなるのはどのような神経機構によるものなのかは不明だった。また、食物の嗜好に関わる前頭前皮質が重要な役割を果たしていると考えられてきたものの、睡眠との直接的な関係は分かっていなかった。

 研究グループはレム睡眠不足に陥ったマウスを準備し、その摂食行動に注目した。すると、レム睡眠が不足したマウスはショ糖、脂質ともに摂食量が増加した。一方、人為的に前頭前皮質の神経活動を抑制したマウスは、レム睡眠量が不足してもショ糖の摂取量は増加しなかったが、脂質の摂取量は影響を受けず、対照群と同様に増加することがわかった。

 これらの成果から、睡眠不足の状態にあるとき、ショ糖を多く含み体重を増加させる、いわゆる「太りやすい」食べ物を摂取したくなる欲求は、前頭前皮質によって直接的に制御されている可能性が示唆された。これは、レム睡眠と前頭前皮質、食物の嗜好性との直接的なつながりを示した初めての成果といえる。

 レム睡眠は加齢とともに減少することが知られている。また、糖尿病や心血管疾患など肥満と密接に関連する疾患は増加し続けている。本研究の成果を足がかりに、高齢化社会において健康的な食事行動を促進する、新たな神経薬理学的な戦略の開発が期待される。

大学ジャーナルオンライン編集部

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