大阪大学の橋本幸士教授は慶應義塾大学、京都大学との共同研究により、物質素粒子クォークの力学における複雑性の指標を計算することに、世界で初めて成功した。

 運動の複雑性を表すカオス理論には、「リャプノフ指数」と呼ばれる複雑性の大きさを表す数が知られている。リャプノフ指数の大きさは運動の複雑さを示すことから、予測の困難さを表す。指数計算は運動する粒子の場所と速度を元にするが、ミクロな物理系では量子力学と呼ばれる原理が適用され、場所と速度を同時に特定できず、計算が困難とされた。

 これまで、世界を形作る素粒子の運動に対して、カオス理論を適用した例は、力を媒介する素粒子(ボソン)に対してだった。一方、17種類発見されている素粒子のうち、物質を構成する元となっているクォークなどの「物質素粒子」(フェルミオン)に対しては、カオス理論の適用は困難だった。

 今回の研究では、超弦理論で近年発展してきた「ホログラフィー原理」を用いることで、クォークに関わる運動において、量子力学の効果は保ったまま、場所と速度の情報の取入れが可能になった。この手法を用いて、クォークの運動を仮想的なボソンの運動に等価変形して書き換えることにより、カオスの指標であるリャプノフ指数を物質素粒子に対して計算することに成功。クォークの運動にカオスが存在することを示した。

 複雑性を計算できるカオス理論の適用範囲を、量子力学的な解析が困難な物質素粒子クォークまで広げることは、「素粒子の標準理論」(注)の複雑性解明への一つのステップという。今回の研究を契機として、素粒子の標準理論を自然が選んでいる理由が明らかになることが期待される。

(注)素粒子17種類の記述とその相互作用を表す理論で、2008年のノーベル物理学賞を受賞した南部陽一郎博士の「自発的対称性の破れ」を基礎とする。

大学ジャーナルオンライン編集部

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