山梨大学大学院の伊藤大裕大学院生、若山照彦教授らの研究グループは、凍結乾燥したマウス精子を薄いプラスチックシートに挟んで保存することに世界で初めて成功。1冊のアルバムで膨大なマウス系統を管理でき、短期なら常温保存も可能で、ハガキで郵送した精子からマウスの作出にも成功した。
精子の保存技術は、優良家畜の人工授精や、絶滅危惧種の保全、膨大な数の実験用マウスの系統維持など広い分野で必要とされる。通常は、液体窒素タンクや超低温冷凍庫により凍結保存するが維持費がかかり、電力が途絶えると精子は溶けてしまう。
近年、研究グループはマウス精子を使って哺乳類精子の凍結乾燥(フリーズドライ)の技術開発を進め、マウス精子の常温保存(机の引き出しで1年以上)や、国際宇宙ステーションでの長期間保存に成功。しかし、ガラス製のアンプルビンを必要とし、ガラスが破損する危険性や大量保存に不適などの欠点があった。
そこで今回、薄いプラスチックシートに凍結乾燥精子を挟んで保存する技術を開発。この技術は破損の心配がなく作製コストも低い。現時点では長期保存に冷凍庫が必要だが、非常に薄いため数百種類のマウス系統の精子を1冊のアルバム状冊子に保存できる。実験では、冷凍庫(−30°C)に3ヶ月間保存しても健康な産仔を多数得た。常温でも3日間程度保存でき、ハガキにシートを貼り付けて国内郵送した精子から、実際にマウスの作出に成功した。
今後、長期間の常温保存が実現すれば、エアメールで国際輸送や地域を問わない保存が可能となる。将来的に法整備や知的財産保護等の課題はあるが、この技術により共同研究の促進や貴重な遺伝資源の保存に資するとしている。
論文情報:【iScience】Mailing viable mouse freeze-dried spermatozoa on postcards