深海熱水噴出孔環境は、地球生命が誕生した可能性が最も高い場所として注目されている。今回、東京工業大学と海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究グループは、深海熱水噴出孔から吹き出る熱水のエネルギーをもとに生命の原材料となる有機化合物が生成される新たなメカニズムを突き止めた。

 初期の生命は、還元型アセチルCoA経路や逆クエン酸回路というCO2固定代謝システムを使う独立栄養生物であったと推定されている。しかし、深海熱水噴出孔環境でCO2固定システムに関する有機化学反応を進行させるような有効なメカニズムは見つかっておらず、どのようにして有機化合物が作り出されていたのかはわかっていない。

 一方、2017年に、逆クエン酸回路内の一部の反応が純金属によって促進されることを、フランスのストラスブール大学の研究グループが報告した。JAMSTECは以前に、熱水噴出孔近傍で熱水と海水の電位差に沿って電流が発生すること(熱水発電)を確認していたため、ここから、噴出孔の代表的な構成鉱物である硫化金属が電気還元によってメタル化し、その表面で有機化学反応が促進されていた可能性を発想した。

 そこで、初期海洋底の熱水噴出孔環境で生じていたと推測される電気化学反応場を再現し、検証実験を行った。その結果、鉄・銅・鉛・銀を含む硫化金属が数時間~数日のスケールでそれぞれのメタルへと変化することが実証された。さらに、その途上で生じる硫化鉄と金属鉄の複合体が還元剤及び触媒となって、逆クエン酸回路内の一部の反応を含む、生命発生に不可欠な複数の有機化学反応を促進することも発見した。

 初期海洋底では、今回の実験で示されたメタル化や有機化学反応が幅広く進行し、生命の発生を大いに後押ししたと考えられる。本成果は、生命を生み出しうる環境条件の一端を明らかにしたものといえる。

論文情報:【Science Advances】Metals likely promoted protometabolism in early ocean alkaline hydrothermal systems

東京工業大学

時代を創る知を極め、技を磨き、高い志と和の心を持つ理工人を輩出し続ける理工大学の頂点

東京工業大学は産業の近代化が急務となっていた1881(明治14)年に東京職工学校として設立されました。設立以来、優秀な理工系人材と卓越した研究成果を創出し続け、現在も日本の理工系総合大学のトップにいます。東京工業大学は高度な専門性だけでなく、教養学を必修とする[…]

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。