筑波大学と京都大学の研究グループは、睡眠中の動物の脳における毛細血管中の赤血球の流れを直接観測することに、世界で初めて成功。レム睡眠中の毛細血管の血流が大幅に上昇することが分かった。
ヒトを含む哺乳類の睡眠はレム睡眠とノンレム睡眠から構成され、レム睡眠中には夢が活発に生じる(ヒトの総睡眠時間の約80%がノンレム睡眠、約20%がレム睡眠)。これまで、ノンレム睡眠中のホルモン環境は身体の回復に寄与することが示唆されてきたが、レム睡眠の脳や体の回復への寄与は謎だった。
脳に必要な血液中の酸素や栄養を送り届け、不要となった二酸化炭素や老廃物を回収する物質交換は、毛細血管を介して行われる。研究グループは、特殊な顕微鏡(二光子励起顕微鏡)を用いて、マウスの脳内の微小環境を直接観察できる技術を確立し、睡眠中のマウスの脳における毛細血管中の赤血球の流れを観察した。
その結果、レム睡眠中に、大脳皮質の毛細血管への赤血球の流入量が大幅(2倍近く)に増加していることが判明。レム睡眠中に大脳皮質で活発な物質交換が行われ、脳がリフレッシュされていると考えられる。成人のレム睡眠の割合が少ないと認知症などにかかるリスクが高まるが、レム睡眠の不足がレム睡眠中の大脳皮質での活発な物質交換を損ない、これが認知症の発症に関与している可能性がある。また研究では、レム睡眠中の毛細血管の血流上昇には、カフェインの標的物質でもあるアデノシン受容体の重要性も判明した。
今回の研究成果は、認知症の発症に関するメカニズムの理解につながるとともに、レム睡眠を標的とした全く新しい治療法の開発にも貢献できると期待される。
論文情報:【Cell Reports】Cerebral capillary blood flow upsurge during REM sleep is mediated by A2a receptors