東京工業大学の伊藤創祐研究員は東京大学の沙川貴大准教授と共同で、大腸菌がエサを探す際の情報処理の仕組みを解明しました。細胞内での情報処理は分子レベルで行わます。その働きが19世紀に考えられたマクスウェルのデーモンに似ていることが指摘されていました。

 マクスウェルのデーモンとは「分子レベルの現象を観測し、その状態に応じて分子を操作する」架空の存在です。例えば通常は高温の空気(分子の速度が速い)と低温の空気(速度が遅い)が混ざれば温度は中間の値になり、混ざる前の状態に分離することはあり得ません。しかし小さな悪魔のような存在が空気中の分子の速度を観測し、速いものと遅いものに選り分ければ、そのあり得ないことが起こってしまいます。

 デーモン自体は完全に架空のものとして考え出されましたが、生物の細胞の研究が進むにつれてこのデーモンのように分子の状態に応じて異なる制御をする現象があることが分ってきました。例えば大腸菌は栄養分の濃度が高い方向に動いていくことが分っています。周囲の栄養分の濃度を「分子レベルで細胞内に記録」し、その「結果に基づいて進む方向を決定」しているというのです。これはまさに濃度の状態に応じて行動を決定するというデーモンの働きと同じものです。この働きを詳しく分析することで大腸菌が非常に効率よく情報処理を行っていることが明らかになりました。
 生物が細胞の中でどのような情報処理を行っているかのメカニズムを完全に解明できれば、それを人工的に活用することも可能になるとしています。もしかしたら大腸菌の仕組みを応用した、効率の良い情報処理を行うコンピュータが登場する未来が来るのかもしれません。

出典:【東京工業大学】大腸菌に潜む「マクスウェルのデーモン」の働きを解明―情報と熱力学の融合による生体情報処理の解析への第一歩―

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