海洋投棄された廃タイヤに侵入したヤドカリが脱出できずに中で多数死んでいることが、弘前大学農学生命科学部の曽我部篤准教授らの研究で分かった。曽我部准教授らはヤドカリが沿岸生態系の物質循環に重要な役割を果たしていることから、廃タイヤ対策が必要とみている。

 弘前大学によると、曽我部准教授らは青森県の陸奥湾沿岸にある水深8メートルの海底に6基の廃タイヤを置き、ヤドカリの侵入状況を1年間にわたって観察した。その結果、ケブカヒメヨコバサミ、ユビナガホンヤドカリを中心に合計1,278匹のヤドカリが見つかった。1つの廃タイヤに1日当たり、0.58匹が侵入した計算で、特に冬場に多くのヤドカリが侵入していた。

 水槽内に設置した廃タイヤの周辺にヤドカリを放したところ、ユビナガホンヤドカリで67%、ケブカヒメヨコバサミで50%が廃タイヤ内に侵入したが、廃タイヤ内から外部へ脱出した例は1つもなかった。曽我部准教授らはタイヤ内がネズミ返しのような構造で、一度侵入したヤドカリが脱出できずに死ぬ「ゴーストフィッシング」(※1)が起きていると結論づけている。

 廃タイヤは漁船の衝撃吸収材や漁礁として利用され、相当な量が海底に存在すると考えられている。曽我部准教授らはヤドカリが生物の死骸や有機物片を摂食する海の掃除屋で、肉食性大型魚類のえさになって海の生命循環を支えていることから、廃タイヤ対策に乗り出す必要があるとしている。

※1 ゴーストフィッシング 水中に廃棄・投棄された漁具などが水生生物に危害を与える現象

論文情報:【Royal Society Open Science】Marine-dumped waste tyres cause the ghost fishing of hermit crabs

大学ジャーナルオンライン編集部

大学ジャーナルオンライン編集部です。
大学や教育に対する知見・関心の高い編集スタッフにより記事執筆しています。