東京大学の小枝圭太特任助教らの研究グループは、魚に光るタグを付けて暗闇の中を泳いで追跡する世界初の手法により、夜行性魚類ハタンポ科の夜間の行動生態の解明に成功。従来の予想に反し、ミナミハタンポは夜間にサンゴ礁の外まで長距離を回遊していることが判明した。

 ミナミハタンポはサンゴ礁域で最も個体数の多い小型の夜行性魚類の一つで、体長は15cmほど。日中、サンゴ礁域の水中洞窟などの暗がりで数十から数千個体の群れを成す。しかし、夜になると昼の隠れ家からこつ然と消え、その行く先や行動は全く不明だった。

 夜行性魚類は光に敏感でライトを使った観察はできない。そこで今回、採集した魚体に小型の光るタグを装着して放流。それを観察者が夜の海を泳いで追跡した。慎重な調査・準備に加え、十分なサポートも受けながら漆黒の夜の海で追跡が行われた。

 その結果、ミナミハタンポは夜間にサンゴ礁の外の沖合に出て、極めて長距離を回遊していた。日没後、水中洞窟から一斉に回遊し始め、約1時間の観察で最長例は700m、短いものでも約400mに達した。魚は移動を続け、一晩に最大7kmほど移動すると見積もられた。

 サンゴ礁の内側は貧栄養だが、外側は日中海底に隠れていた動物プランクトンが夜水中に浮上し栄養豊富となり、外への移動は産卵や摂餌などに有利となる。実際この魚は成長が早く繁殖頻度が高いため、捕食者の重要な餌資源となっている。夜はサンゴ礁内に戻って糞を排出し、サンゴ礁内外の生態系のエネルギー循環に重要な役割を担っていることが分かった。

 研究グループは、今回の新たな手法が今後の夜行性魚類に関する研究に生かされ、魚類生態の正確な把握につながることを期待している。

論文情報:【PeerJ】Nighttime migrations and behavioral patterns of Pempheris schwenkii

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