東北大学大学院の小坂健教授らの研究グループは、調査の結果、歯の喪失と認知症発症との間に有意な関連が見られ、その関連を友人・知人との交流人数といった社会的な要因や、野菜や果物の摂取などの栄養に関する要因が部分的に説明することを明らかにした。
認知症発症のリスク要因には、高血圧や糖尿病、精神状態の悪化や身体活動量の低下、社会的な交流の低下などがある。口腔は会話や食事を行う際に使用する器官であり、栄養摂取や社会的な交流といった経路を介して口腔が認知症発症に影響する可能性があるが、口腔状態と認知症発症との関係について調べた研究はなかった。
今回の研究では、日本老年学的評価研究機構のデータの2010年、2013年、2016年の調査に回答した人35,744名を解析対象者(女性が54.0%)とした。平均年齢は男性73.1歳、女性73.2歳。歯の本数と認知症発症との因果関係を、何が媒介(仲立ち)するかを分析。媒介変数には、体重減少、十分な野菜や果物摂取(1日1回以上)、閉じこもり、交流人数(10人以上)の有無を用いた。
2010年時点で13,580人(38.0%)が20本以上の歯を有しており、1,776人(5.0%)が2013~2016年に認知症を発症した。解析の結果、歯の喪失が認知症発症に有意に関連しており、特に男性では、友人・知人との交流人数が口腔と認知症との関係を13.79%、女性では野菜や果物摂取が8.45%の割合で説明し、大きな役割を果たしていた。
研究グループは、歯をできるだけ残すことは、家族や友人との社会関係を維持することにもつながり、また良好な栄養状態を通じて、認知症発症予防に寄与している可能性があるとしている。