岡山大学大学院医歯薬学総合研究科のニパワン・ヌアムケット特任助教(研究当時)らの研究グループは、口の中で味物質の感知を担う味覚受容体タンパク質について、受容体の主要部分である細胞外のセンサー領域が、味物質を結合している状態の構造を解明することに成功した。五感を担うセンサータンパク質のうち、味覚の受容体の立体構造が明らかになったのは、これが初めて。今回の成果は、理化学研究所、農業・食品産業技術総合研究機構、自然科学研究機構分子科学研究所、東北大学、大阪大学との共同研究によるもの。
味覚受容では、食物に含まれるさまざまな化学物質を、限られた種類の受容体で認識する。このことから、味覚受容体は、特定の化学物質を厳密に見分けるセンサーではなく、比較的幅広い化学物質を認識できるセンサーであるという特徴がある。しかし、味覚受容体が味物質をどのように認識しているのかは不明だった。
研究グループは、大型放射光施設SPring-8を用いて解析を行った。その結果、味覚受容体には大きな味物質結合ポケットがあり、味物質であるアミノ酸に共通する部位は直接認識しつつ、アミノ酸ごとに異なる部位については水分子に覆われた状態のまま認識していることが判明。また、ポケット表面は、酸性・塩基性・中性など、さまざまな性質を持つ領域がモザイク状に存在しており、多様な性質を持つアミノ酸を結合できることが分かった。
今回の研究成果は、味覚受容の最初の反応である、受容体と味物質との相互作用を原子レベルで初めて捉えたものであり、味覚の仕組みを理解する重要な一歩になるとともに、新しい味物質の開発などにもつながることが期待される。
論文情報:【Nature Communications】Structural basis for perception of diverse chemical substances by T1r taste receptors