防衛医科大学校と奈良県立医科大学、埼玉医科大学の研究チームは、人工赤血球製剤の応用例として、分娩時の危機的な大量出血例を人工赤血球の投与でも救命できる可能性を動物実験により明らかにした。

 分娩に関連した命に関わるような大量出血は、妊婦250~300人に1人の頻度で発生する。輸血を要するほどの大量出血「産科危機的出血」は迅速かつ十分量の赤血球製剤などの輸血が必要となるが、分娩を取り扱う診療所等の8割近くで輸血製剤の事前準備ができずに対処が遅れ、大きな病院への搬送中に心停止となる例が依然として存在する。

 研究チームは室温で2年間有効な、保存性に優れた人工赤血球を開発しており、これを用いて分娩時の大量出血症例を救命できないか研究していた。今回、妊娠子宮から大量出血した出産の近いウサギに人工赤血球を投与したところ、赤血球輸血とほぼ同等の救命効果が得られた。次に、より実際に近いモデルとして、妊娠ウサギに帝王切開を行った後に、子宮から大量に出血したとき、最初の30分間は代用血漿のみを投与し、続いて人工赤血球を投与した。その結果、6時間後でも10羽中8羽が生存することができ、全羽が生存した赤血球と血漿成分の輸血に近い効果が得られた。

 今後、安全性や有効性について詳細に検討する必要があるが、人工赤血球は保存性に優れ血液型に関係なく投与できる特長があり、緊急性の高い分娩時の大量出血に対しても、設備の整った大きな病院に搬送するまでの間の有用な治療手段になる可能性があるという。分娩時の突発的な大量出血を含め、輸血用血液の調達が難しい様々な状況において人工赤血球の投与が効果を発揮することが期待される。

論文情報:【Scientific Reports】Resuscitative efficacy of hemoglobin vesicles for severe postpartum hemorrhage inpregnant rabbits

埼玉医科大学
防衛医科大学校
奈良県立医科大学

大学ジャーナルオンライン編集部

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