脳卒中などによって、痙縮という症状から手足の随意性が低下し生活に支障をきたすことがある。この痙縮を神経生理学的に評価する手段として誘発筋電図を用いてF波という波形を計測する方法がある。正常な筋肉からF波を計測すると、様々な形を有する波形が記録できるが、痙縮を有する筋肉の場合には同じ形の波形が記録される場合がある。つまり、F波の波形の形を分析することで痙縮や随意性を評価できる可能性があるが、妥当性のあるF波の波形分析方法は確立されていない。
関西医療大学 東藤 真理奈助教と信州大学 花岡 正明特任教授、金沢大学 淺井 仁教授、そして、関西医療大学大学院 鈴木 俊明教授は、加算平均法という処理方法を用いてF波の波形を解析できるか否かを検討した。
波形が多様性に出現していれば、加算平均処理することで波形は相殺され振幅値は低下する。この振幅値の変化量がF波の多様性を反映するのではないかと考えた。なお、F波の多様性においては頂点密集度と称した値を算出した。これは、加算平均処理後の波形から定めた一定区間にどれだけの頂点が密集しているかを表したパラメーターである。波形の頂点が定められた区間に密集していれば、加算平均処理による相殺の影響は少ないが、波形の頂点が分散して出現した場合には相殺の影響が大きくなると予想した。さらに、加算平均処理による陰性頂点と陽性頂点の相殺の影響を可視化する目的でヒストグラムを用いて、F波の多様性のType分類を行った。
結果、加算平均処理による振幅値の変化量と頂点密集度に相関は認められなかった。しかし、ヒストグラムより頂点の出現する潜時の特徴を確認したところ、多様性にも5つのTypeが存在していることがわかった。つまり、これらのTypeが混在していることで、加算平均処理による振幅値の変化量と頂点密集度の間に相関が認められない可能性が考えられた。
本研究で得られた結果は、今後F波の波形分析をする上でF波の多様性の一つの基準となる。さらにこのType分類は、今後発展するであろうF波の波形分析方法の一助になると考えている。F波の多様性を分析するパラメーターの確立は、脳血管障害によって随意性が低下している場合や、運動単位の動員欠如などによる筋力低下を有する場合の客観的評価になると考えている。