東北大学大学院情報科学研究科の松宮一道教授は、「心の中の身体」が一つではなく複数あることを突き止めた。

 脳卒中による運動麻痺や加齢による運動機能障害を有する患者さんは、心の中で感じている「心の中の身体」の手や足に異常が生じており、この「心の中の身体」の回復が運動機能障害を克服する鍵を握る。現在のリハビリテーションでは、「心の中の身体」の回復を考慮しないため、治療的介入により障害を患った身体部位が動くようになっても、「心の中の身体」が回復していないと、しばらくして再びその身体部位は動かなくなってしまうという。

 「心の中の身体」は、約1世紀前から存在する古い身体概念だが、患者の主観的印象でしか捉えることができない。また、従来、脳内に一つだけ存在し、すべての運動に対して共通に用いられると考えられてきたが、複数の運動(例えば、目と手を同時に動かすなど)を行っているときの「心の中の身体」の表現は明らかでなかった。

 本研究では、バーチャルリアリティ技術を使って「心の中の身体」を計測する手法を開発した。これを用いて、心の中で感じている自分の右手の指先や関節の位置を、被検者に目と左手の人差し指で同時に指し示してもらう実験を行った結果、目で指すのか、左手で指すのかによって、心の中で感じている右手の形状が異なる(左手で指した右手形状の方がより歪んでいる)ことが判明した。これは、「心の中の身体」が二つあることを示しており、従来の「心の中の身体」概念に修正を迫る画期的な成果だ。

 二つの運動(目と手の動きなど)を同時に行うとき、「心の中の身体」が運動ごとに脳内で別々に表現されていることを示唆した本成果は、運動機能障害の新たな診断にもつながる可能性がある。運動障害を引き起こす「心の中の身体」の異常を可視化する新しい技術開発にも貢献する。

論文情報:【Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America】Multiple representations of the body schema for the same body part

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