T2K実験(東海-神岡間長基線ニュートリノ振動実験)国際共同研究グループは、ニュートリノにおける「CP対称性の破れ」を示唆する結果を示した。共同研究グループには、東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構のMark Hartz(マーク・ハーツ)特任助教らの研究者が参加している。
素粒子物理における標準模型では、物質を構成する粒子の生成には反物質を作る反粒子も生成し、宇宙の初期に同量生成したとされる。しかし、現在の宇宙では物質のみ存在し、反物質はほとんど観測されない。この物質と反物質の非対称性を説明するのが、ニュートリノ(素粒子の一つ)におけるCP対称性の破れ(物質と反物質の性質の違い)に関する理論だ。
T2K実験は、ニュートリノと反ニュートリノのそれぞれのニュートリノ振動を調べることで、ニュートリノにおけるCP対称性の探索を行うことのできる世界で初めての実験だ。実験は、大強度陽子加速器施設 J-PARC(茨城県東海村)で高強度のミュー型ニュートリノビーム(あるいは反ミュー型ニュートリノビーム)を生成し、295km 離れた岐阜県飛騨市神岡にある宇宙線研究所のスーパーカミオカンデ検出器に向けて放ち、それが電子型ニュートリノもしくは反電子型ニュートリノへと変化する確率の差を調べるもの。
これまでに検出された数十個のニュートリノのデータ解析とその後の検証により、ニュートリノと反ニュートリノでニュートリノ振動の起きる確率に違いがみられ、ニュートリノにおいてCP対称性の破れが存在する可能性が示された。さらに現在、電子型ニュートリノに関して新たなデータを相当量取得しており、この解析結果が年内には示されることが期待されている。
論文情報:【Physical Review Letters】Combined Analysis of Neutrino and Antineutrino Oscillations at T2K