広島大学と北海道大学の共同研究で、冬眠期のツキノワグマ血清をヒト骨格筋培養細胞に添加すると、骨格筋細胞の総タンパク質量が増加することが明らかとなった。
ヒトでは、ベッドレスト(寝たきり)などの不活動状態では、1日あたり0.5-1.0%程度の割合で骨格筋タンパク質量が減少し、身体機能の低下が進行する。一方、不思議なことに冬眠動物では、冬眠前後で筋肉の大きさや発揮される筋力が全く変化しないか、減少するとしても非常に軽微な範囲にとどまることが報告されている。
冬眠動物における骨格筋の萎縮耐性ともいえる、未解明の筋肉量維持機構を明らかにすべく、本研究では、冬眠動物であるツキノワグマから冬眠期において採取した血清と共にヒト骨格筋細胞を培養する実験を行った。その結果、冬眠期ツキノワグマ血清の添加により、ヒト骨格筋培養細胞において筋肉を構成する総タンパク質量が増加するという、筋トレの効果と類似した細胞の応答が認められることがわかった。
この骨格筋細胞の総タンパク質量の増加は、冬眠期クマ血清の添加が筋タンパク質合成系の制御に関与、あるいは筋タンパク質分解系を抑制することで達成されている可能性があることも示されたとしている。
本研究成果は、長期間の不活動・栄養不良を経験し、それでもなお筋肉が衰えない冬眠動物がもつ適応システムの一端を示唆するものである。冬眠期クマ血清に存在する、骨格筋細胞のタンパク質代謝を制御し筋肉量維持に貢献するとみられる「何らかの因子」は未だ特定に至っていないが、将来的には、冬眠動物が有する「使わなくても衰えない筋肉」の仕組みの解明がヒトの寝たきり防止や効果的なリハビリテーション手法の開発につながる可能性がある。