超伝導体を用いると、電気抵抗によるエネルギー損失をゼロにすることができる。中でも、超伝導転移温度が液体窒素温度を上回る銅酸化物高温超伝導体は、冷却材の費用が大幅に削減可能で、無損失送電線や超伝導電磁石の材料として実用化の研究が進められてきた。
鉛やアルミニウムにおいては、反発しあう電子の間を格子振動が仲介することによって超伝導が発現する。一方、銅酸化物における高温超伝導を発現する「立役者」の正体は特定が難しく、激しい論争が15年以上も続いていた。今回、大阪府立大学、広島大学などの研究グループは、この「立役者」の決定的な証拠をとらえることに成功した。
研究グループは、高輝度シンクロトロン放射光と世界最高水準の高分解能・角度分解光電子分光装置を組み合わせて、銅酸化物高温超伝導体の中の電子の速度変化を精密に観測し、微細構造の分離を実現。さらに、正孔添加量を極度に増やすことで電子と「立役者」のやりとりの痕跡をくまなく観測することに成功した。その痕跡は格子振動の分布と完全に一致しており、高温超伝導を担う電子が最も強く結びついているのが格子振動であることが明らかになった。
高温超伝導に関与する格子振動の全容を解明し長年の論争を解決したこの成果は、電子と格子振動のやりとりの観点からさらなる高温超伝導体の探索を導く指針を与え、高温超伝導体を用いた材料開発を促進するものと期待されている。
論文情報:【Scientific Reports】A New Landscape of Multiple Dispersion Kinks in a High-Tc Cuprate Superconductor