福岡大学薬学部薬物送達学の櫨川舞准教授らの研究グループは、「転移がんへの特異的集積性」、「細胞膜透過性の向上」、「安全性」の“一石三鳥”の特徴を備える新しい核酸医薬を開発することに成功した。
核酸医薬とは、デオキシリボ核酸(DNA)やリボ核酸(RNA)に代表される「核酸」を基本骨格として構成された医薬品を指す。核酸医薬は、難治性の転移がん治療にも有用性が期待されており、従来の抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬よりも副作用を軽減できることが見込まれている。
しかし、核酸医薬をがん細胞のみに効率よく届ける“標的化”の技術が確立されていないため、実用化には至っていないという。また、核酸は細胞膜を通過しにくいため、核酸医薬の細胞膜透過性を向上させるための容器(薬物キャリア)の開発も望まれている。
この2つの課題解決を目指した新しい核酸医薬の開発研究に取り組んできた櫨川教授らのグループは、今回、がん細胞の作り出すエクソソームに注目した。エクソソームは脂質二重膜に包まれた顆粒状の物質であり、細胞から産生されるが、特にがん細胞の作り出すエクソソームは、転移臓器特異的に集積しやすい性質を持つ。つまり、がん患者の血液成分からエクソソームを回収し、そこに核酸を封入すれば、がんの転移先に効率よく薬物を届けることができる核酸医薬となると考えられる。
本グループは、がんモデルマウスの血液成分からエクソソームを抽出し、核酸を封入した薬剤を開発したところ、がん転移に対する動物実験で既存の薬物を上回る治療効果を発揮することを確認した。
この技術により、①転移がんへの特異的集積性、②細胞膜透過性の向上という課題をクリアーすることに加え、自己成分を医薬品の素材とすることから抗原性の低い③安全な医薬品設計が実現される。本製剤は、核酸を用いる点において抗がん剤で懸念される副作用も限りなく抑えることができるとしており、革新的ながん治療法として実用化されることが期待される。