国立がん研究センターと慶應義塾大学は、難治性であり、かつ病態解明が困難であるスキルス胃がんについて、腹膜播種による腹水細胞を用いた全ゲノム解析等によって、疾患に特徴的なゲノム異常を解明した。難治性がんに対する新たな治療法開発が期待される。

 スキルス胃がんは、がん細胞が粘膜下に広く浸潤し、診断時にすでに腹膜播種や腹水を来すことが多い悪性腫瘍。膵臓がんなどと並んで最も予後の悪いがん種とされる。これまで胃がん全体あるいはびまん性胃がんのゲノム解析は報告されてきたが、スキルス胃がんは、手術があまり行われず、また検体を入手できても線維化が強くがん細胞の含有割合が低いため、スキルス胃がんのゲノム異常や発がん機構は不明だった。

 そこで研究グループは、スキルス胃がんについて、しばしば病初期から存在することが知られる腹膜播種による腹水細胞を対象として全ゲノム解析等を行い、病態の解明と治療標的の同定を試みた。

 その結果、スキルス胃がんに特徴的な遺伝子異常を数多く同定し、しかも全体の約4分の1が既存の分子標的薬剤の有効性が期待できることを見いだした。さらに、腹水中のがん細胞から樹立した細胞株を用いて腹膜播種モデルマウスを作成し、各阻害剤を投与したところ、がん細胞の増殖抑制または腹膜播種の消失を確認した。

 スキルス胃がんは、早期発見が難しく、おなかの中にがん細胞が散らばる腹膜播種により治療も難しいため、発がんや腹膜播種を抑制する治療が求められている。今後、がん患者を対象とした臨床開発への検討を重ね、がん遺伝子パネル検査(多数の遺伝子の同時検査)への実装や分子標的治療薬の開発を目指すとしている。

論文情報:【Nature Cancer】Multi-omic profiling of peritoneal metastases in gastric cancer identifies molecular subtypes and therapeutic vulnerabilities

慶應義塾大学

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