静岡理工科大学の小土橋陽平准教授の研究グループは、液体のりの成分を用い、セミの翅のナノ柱構造を模倣した親水性フィルムの開発に成功。フィルム上のナノ柱は細菌を捕捉し細菌膜を変形させるため抗菌性材料として使用可能で、医療用として傷を覆う材料や医療機器への応用が期待される。
2012年に、新規細菌対策として物理的に細菌膜を破壊するセミの翅のナノ柱構造が発見された。ナノ柱に吸着した細菌膜は物理的に伸長され、結果として膜破壊を起こし殺菌につながる。現在、これらの抗菌表面はブラックシリコンやチタン、金などを用いて模倣されている。一方、高分子材料、特に親水性高分子からなるナノ柱は、高い表面積から水へ溶解するため作成が困難だった。セミの翅構造は進化の過程で軽量化のため乾燥しているが、水を含有できる構造は、細菌にとって未知との遭遇となり、対応できず高い抗菌性を示すかもしれない。
研究グループは、親水的なナノ柱ハイドロゲルフィルムを、液体のり成分のポリビニルアルコール(PVA)、それにポリメタクリル酸を用いて、市販のアルミナ多孔質基盤により簡便に作成した。高分子の架橋で構築されたナノ柱は非常に柔軟性があり、ナノ柱が傾いても構造は破壊されなかった。ナノ柱によるグラム陰性菌とグラム陽性菌の捕捉が観察され、捕捉された細菌の細菌膜は殺菌性が示唆される形状の変化が観察されたことから、抗菌性材料としての応用が期待される。
研究グループは今後、抗菌性材料として、創傷被覆材(ドレッシング材)などの医療機器や医療機器を覆うフィルム材へ応用展開し、国内企業との共同開発を進め、10年以内での製品化を目指すとしている。