芝浦工業大学の平林由希子教授らの研究チームは、洪水リスク軽減に向けた適応策の実施後に、気候変動などで洪水被害額が現在より増加する地域を特定。その場合の被害額増加分を世界で初めて評価した。

 これまで、洪水被害増加を低減させる適応策の有効性を調べた研究はあったが、適応策実施後に洪水被害が増加する「適応の限界」を定量的に評価した研究はなかった。そこで研究チームは、その適応の限界を全世界の地方行政単位(県や州)で、費用便益分析による評価※を行った。

 極端な温暖化進行シナリオでは、洪水被害は年平均983億米ドル増加するが、年間68億ドルの適応策により、被害は年間最大740億ドル軽減されるため、洪水被害は年間243億米ドルの増加と推計された。また、異なる温暖化レベルのどのシナリオで分析しても、地球上のほぼ全地域で、適応策の実施後に現在より洪水被害額が増加する(地方行政単位のGDPの0.05%以上)ことが分かった。

 適応策で洪水被害増加を大幅減少できる地域は多いが、アフリカや中南米等の一部の地域では、地域の経済状況に対して適応策は実施コストが高いため実施されず、洪水防御レベルが低いことが分かった。途上国での被害軽減のため、適応策への国際的な財政支援の必要性を示した。

 また、中国、インド、アジア、アフリカ、中南米等の一部の地域では、適応後でも大きく洪水被害が増える(0.05%以上)。洪水防御設備の建設中に発生する洪水被害が大きいためで、早期の適応策決定と実施の短期間化に加え、予警報や避難などのソフトな対策も必要という。

 研究チームは、地球規模での効果的な適応策の実施には、早期の意思決定と国際的な資金援助が重要な要素と指摘する。

※適応策による被害軽減額(便益)と適応策実施費用による評価

論文情報:【Nature Climate Change】Residual flood damage under intensive adaptation

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