京都大学、順天堂大学、埼玉医科大学の共同研究グループは、コアラのおしり(臀部)と下肢(大腿後面部)の筋の肉眼解剖を実施した。100年ほど前から更新されていなかったコアラの解剖学をアップデートすることで、私たち有胎盤類との解剖知見の比較が可能となった。
哺乳類にはヒトを含む有胎盤類とコアラを含む有袋類の分類があり、この2つの生物群は系統的に離れているにもかかわらず、進化過程で似たような形態を獲得したケースが認められる。こうした進化のことを収斂と呼ぶ。哺乳類の収斂進化を理解する上で、外観だけでなく機能的にも類似があるのかどうか、解剖学的所見から有胎盤類と有袋類の比較検証を行うことは重要な課題である。
ところが、有袋類の解剖学に関する先行研究は一様に古く(19世紀や20世紀初頭)、古典的なことからこれまで有胎盤類との比較を行うには不十分だった。例えば、有胎盤類と同等と考えられる筋肉に異なる名称が使用されていたり、同じ有袋類の筋肉でも文献によって記述が異なったりと混乱も多く、まずは有袋類の解剖学的知見それ自体に再評価と更新が必要だったという。
そのため本グループは、オーストラリア・アデレード大学の協力のもと、コアラ成獣標本の臀部ならびに後部大腿筋群の肉眼解剖を実施した。このとき、神経の走行を丁寧に観察し、筋に分布する支配神経による筋の同定を行うという筋肉の発生学的起源に基づく手法をとることで、従来は困難だった有胎盤類との解剖知見の比較を可能とした。
本研究により、先行研究では一貫性のなかったコアラの筋形態に関する知見が整理され、有袋類の比較解剖学の第一歩を踏み出すことができた。有袋類と樹上性霊長類に共通する特徴や、コアラ特有の筋形態的特徴も明らかにすることができたとしている。本グループは、今回の研究手法を有袋類の他の筋肉にも応用することを考えているという。