乳児期の母乳成分により、糖脂質代謝改善作用を有するFGF21遺伝子がDNA脱メチル化を受けること、いったん確立したDNAメチル化状態が長期間、記憶・維持(エピゲノム記憶)されて成獣期の肥満の発症に関連することが明らかになった。東京医科歯科大学・九州大学の小川佳宏教授らの研究グループと筑波大学、森永乳業などとの共同研究による成果だ。
妊娠期の母親が過栄養や栄養不足の場合には、生まれた子供は成人期に生活習慣病を発症する危険度が高まるとされる(DOHaD仮説)。この仮説の分子機構として、代謝関連遺伝子の「DNAメチル化」などによる「エピゲノム修飾」(注)が注目されている。
今回の研究では、乳仔期のマウス肝臓において、糖脂質代謝改善作用を有するFGF21遺伝子が、脂質センサー分子PPARαを介するDNA脱メチル化を受けることを見出した。また、授乳期の母獣マウスにPPARαを活性化する薬剤を投与すると、これが乳汁に移行し、乳汁を摂取した産仔マウスではFGF21遺伝子のDNA脱メチル化がさらに促進されること、この時期にいったん確立したDNAメチル化状態は成獣期まで長期間、記憶・維持されることが明らかになった。
一方、DNA脱メチル化の促進は成獣期に薬剤を投与しても起こらず、乳仔期に限られた。また、FGF21遺伝子のDNA脱メチル化が進んだ産仔マウスでは、成獣期のPPARαの活性化によるFGF21遺伝子の発現量がより強く誘導され、さらに成獣期に高脂肪食を食べさせても、FGF21遺伝子の発現量の増加とともに肥満の進行が抑えられることが分かった。
乳児期のエピゲノム記憶が成人期の疾患発症に関連する分子機構が示唆されたことにより、乳児期に介入する生活習慣病の「先制医療」の手掛かりが得られることが期待される。
(注)遺伝子そのものを変化させずに、後天的に遺伝子の発現量を調節する仕組みをエピゲノム修飾と呼ぶ。DNA メチル化は代表的なエピゲノム修飾の一つであり、通常は遺伝子の発現量を抑制する。