東京工業大学の中島淳一教授と東北大学の内田直希准教授は、茨城県南西部のフィリピン海プレートの上部境界周辺で発生する地震の波形を解析。プレート境界での約1年周期で発生する「スロースリップ」に伴って水が浅部に排出されていることを明らかにした。
スロースリップ(ゆっくりすべり)とは数日から数年かけてゆっくりと断層が動く現象。プレート境界の巨大地震震源域の周辺で周期的に発生することが多く、震源域への応力蓄積に重要な役割を果たすとされる。一方、スロースリップによって水の移動が起こると、周囲のプレート境界の強度が著しく低下する可能性があるため、水の挙動の解明はプレート境界地震の発生予測に極めて重要という。
中島教授らは、茨城県南西部のフィリピン海プレートの上部境界付近の地震活動と地震波減衰の時間変化を詳細に推定し、スロースリップによる水の挙動の解明を目指した。
その結果、繰り返し地震の活動が約1年周期で活発化し、その活動と同期してプレート境界直上の地震波の減衰特性が大きくなり、さらにそれから数ヵ月遅れて浅い地震活動が活発化することが判明。これは、プレート境界でのスロースリップが約1年周期で発生し、それに伴ってプレート境界の水が上盤に排出され、その水が数ヵ月かけて浅部に上昇し、上盤プレート内で地震を誘発したと説明できるとしている。これは、人工的な注水実験と類似しており、関東地方の地下で「天然の注水実験」が生じている可能性があるとしている。
今回の成果はスロースリップとプレート境界地震の相互作用の研究に新たな方向性を示し、プレート境界地震の発生メカニズムの解明に寄与すると期待される。
論文情報:【Nature Geoscience】Repeated drainage from megathrusts during episodic slow slip