つくば市教育委員会、東北大学大学院情報科学研究科の堀田龍也研究室、東京書籍株式会社、および株式会社Lentranceは、2021年10月より、GIGAスクール構想による学習者用端末と学習者用デジタル教科書の普及に対応し、学習者用デジタル教科書から得られる学習履歴の活用による指導改善や評価への活用の実現に向けた実証研究を行ってきた。今回、2021年度の結果についての報告書を公開した。

 実証研究では、つくば市立小学校7校、中学校5校(※義務教育学校含む)を対象に学習者用デジタル教科書の使用が児童生徒の学習に与える影響を検証し、学習履歴データの活用による学習行動の可視化を行った。実施した教科は小学校の国語(1~6年) 社会(4~6年) 保健(3~6年)、中学校の英語(1~3年) 技術・家庭(技術分野)で、このうち小学校社会4年と中学校英語1年について詳細な調査を実施した。

 まず中学校英語1年について、調査によると、学習者用デジタル教科書使用開始直後(10月)と4カ月後(2月)に実施した英語力の調査(Reading、Listening)では、全ての指標で2回目が1回目を上回る結果となった。ただし、スコアの上昇には様々な要因が考えられるため、学習者用デジタル教科書の活用の効果と結論付けることはできないとしている。

 合わせて実施した英語学習に関するアンケート調査の結果からは、「英語の学習方法(学習方略)」「教科書観」などの項目については、前後で大きな変化は見られなかったものの、「英語の学習方法(学習方略)」の項目で、「英語の発音練習をする」における肯定的な回答の割合(「とてもよくあてはまる」+「まあ当てはまる」の%)が上昇した。

 授業後に行ったアンケートからも、使用開始直後と、4カ月後では特に「単語の発音練習をする」「教科書本文の音読練習をする」などの項目で、学習者用デジタル教科書の使用が増えると同時に「していない」の回答が減っており、学習者用デジタル教科書の導入により発音練習や音読練習に対する意識が高まっていることが分かった。一方で、「教科書の色々なページを見る」「教科書本文をノートに書く・写す」などの項目では前後で大きな変化はなく、紙かデジタルかのどちらかではなく、メディアの特性を生かして両方を使い分けている様子が見て取れた。

 学習履歴データを調べると、教育委員会が実施した研修会後、操作回数、ユーザ数共に増えている様子が確認できた。学習者用デジタル教科書の活用の推進のためには、導入するだけではなく、研修会等で活用の仕方を周知していくことが重要であると言える。日付別・時刻別の学習履歴から、中学校英語では、放課後も一定の利用があり、英語の教科書は、家庭学習(予習・復習や宿題等)においても活用されているほか、長期休暇中の家庭学習等でも利用されている様子がうかがえる。

 教科書のどの部分を使用したかを表すヒートマップを見ると、小学校5年生社会下巻では図版やコラムが多く、小学校6年社会歴史編では本文が多いなど、教科や学年による活用のされ方の違いが明らかになった。中学校英語においては、朗読音声の再生コンテンツよりも、本文の拡大表示の方が多く使われていることも明らかになった。

 今後は、これまで取得したデータを基に、実際の使用場面や教員の指導法・働きかけとも照らし合わせて、学習上の意味のある操作と意味のない操作の峻別や、学習者の行動パターンの類型化など、学習履歴データから学習の様子や学習者の特性を明らかにしていく手法の研究を進めていく。分析結果による新しい知見に関しては、東北大学堀田研究室を中心に、学術研究としても公表していく予定。

参考:【東京書籍株式会社】東京書籍、 「クラウド版デジタル教科書」の学習履歴データ活用に向けた共同実証研究の2021年度報告書を公開(PDF)

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