名古屋大学と京都産業大学の共同研究グループ※は、水陸両生植物において、エチレンにより水没が機敏に感知され、葉の気孔形成に関わる遺伝子の発現が抑制される仕組みを突き止めた。
「ロリッパ・アクアティカ(Rorippa aquatica)」は北米大陸原産のアブラナ科の水陸両生植物で、水没すると葉身を細くし、気孔発生を抑制する。それにより水中生活に適した葉を発生させる。しかし、水没を感知して、どのように気孔発生を抑制しているのかは不明だった。
研究グループは、気中(陸上)で育てたロリッパ・アクアティカを水没させて葉の変化を経時的に観察した。すると、成長中の若い葉では気孔の発生が抑制され、気中葉から水中葉へ運命転換が行われていた。この「気孔発生の抑制」は水没直後に生じ、4日後には葉の表皮の気孔密度が低下していた。遺伝子発現解析により、水没後わずか1時間で気孔の分化に関連する遺伝子(SPCHやMUTEなど)の発現を抑制し始め、24時間でほとんど発現しなくなることが判明した。
また、水没により逃げ場を失った植物ホルモン「エチレン」の体内蓄積により環境の変化を機敏に感知することも分かった。エチレンは赤色光が当たっている環境でのみ合成が促進され、水中葉が作られていた。
これにより、ロリッパ・アクアティカでは水中生活につながる進化の過程で、陸上植物が持つエチレン応答経路や光応答経路がつなぎかわり、水没時に葉の表皮の気孔の形成に関わる遺伝子の発現を抑制する仕組みを獲得したことが明らかになった。
環境変化に機敏に応答する植物の仕組みを知ることは、気候変動から植物を守る方法や、環境が変化しても生産性が落ちない農作物の実現に有用な手がかりになるとしている。
※他にテキサス大学(米国)、中国科学院水生生物研究所(中国)、マラーゲ大学(イラン)が参加。