アストロバイオロジーセンター、高エネルギー加速器研究機構、東北大学、秋田県立大学、東京農業大学、基礎生物学研究所、兵庫県立大学、国立極地研究所、中央大学らの研究チームは、南極に生育する緑藻ナンキョクカワノリが赤外線を利用して光合成を行う仕組みを解明した。
通常、植物や藻類は太陽光に含まれる可視光を用いて光合成を行う。一方、南極という非常に厳しい環境で繁殖するナンキョクカワノリは、可視光より長波長の光である赤外線の一部(遠赤色光)を、可視光と同じくらいのエネルギー変換効率で光合成に利用できるという。本研究では、ナンキョクカワノリの赤外線利用型光合成のメカニズムを解明することを目指した。
まず、ナンキョクカワノリの細胞の中から、遠赤色光を吸収する光捕集アンテナタンパク質を同定し、これをPc-frLHC(Prasiola crispa far-red light harvesting Chl-binding protein complex)と名付けた。Pc-frLHCの分子構造は、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析で、11個のタンパク質がリング状に結合した新規の複合体であることを突き止めた。また、それぞれのタンパク質には11個のクロロフィルが結合しており、このうち強く相互作用している5つのクロロフィルが、遠赤色光吸収に関与するとした。
Pc-frLHCに吸収された遠赤色光エネルギーの移動過程を解析した結果、遠赤色光吸収に関与するクロロフィルから通常のクロロフィルへ「アップヒル型励起エネルギー移動」(通常の励起エネルギー移動とは逆に、低いエネルギーレベルの分子から高いエネルギーレベルの分子へ励起エネルギーが渡される現象)が起きていることが確認された。この過程で、遠赤色光のエネルギーが可視光と同等のエネルギーに変換され、光合成反応が進むと研究チームは考えている。
太陽系外惑星の多くは、可視光より赤外線が卓越した環境であることから、赤外線を光合成に利用できる生物の存在は、アストロバイオロジー(宇宙生物学)の分野でも注目だ。今回の成果は、系外惑星における生命の可能性を探る手がかりにもなるかもしれないという。
論文情報:【Nature Communications】Uphill energy transfer mechanism for photosynthesis in an Antarctic alga