生物の体の基本単位である細胞の活動は、生体分子の活性から生み出される。こうした細胞内外の生体分子は、互いに活性を調節しあい、相互作用関係のネットワークを作っている。したがって今日では、細胞の活動の原理を知るには、個々の分子の働きだけでなく、ネットワーク全体の振る舞いを知ることが重要であると考えられている。

 京都大学の研究グループは、生物のネットワークの中でも「遺伝子調節ネットワーク」に着目した。細胞は、その種類によって発現する遺伝子が異なり、遺伝子発現調節が何層にも積み重なったものを遺伝子調節ネットワークと呼んでいる。このネットワークの振る舞いを操作することができれば、自由にさまざまな種類の細胞を作り出せるかもしれないと考えた。

 そして今回、数学的な理論であるリンケージロジック理論を、既に実験的に解明されているカタユウレイボヤ胚の遺伝子調節ネットワークに適用し、その理論を実証することに成功した。リンケージロジック理論は、ネットワークの構造のみから、そのネットワークの活性をコントロールするための重要な分子の同定を可能にする。これにより発見された鍵となる生体分子に、活性を調節する網羅的操作を加えたところ、カタユウレイボヤ胚に分化するほぼすべての細胞に遺伝子発現が認められたという。

 このことは、遺伝子調節ネットワークの構造が細胞運命の決定に十分な情報を持っていることを示すとともに、リンケージロジック理論が遺伝子調節ネットワーク構造の検証に有用であることを実証した。この理論を応用することで、様々なネットワークの働きを調節し、細胞の活動を制御できるようになることが期待される。

論文情報:【iScience】Controlling cell fate specification system by key genes determined from network structure

京都大学

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