東京大学の芳村圭准教授と吉兼隆生特任講師は、放射性物質の拡散方向を予測する新たな手法を開発した。低気圧や季節風などの天気のパターンから拡散方向を予測し、機械学習を用いて予測情報の信頼性を示すことができる。
2011年3月に起きた福島第一原子力発電所事故では、コンピュータシミュレーションを利用した「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)」が出した予測情報を活用できなかった。情報に関する説明が不十分であり、予測の信頼性が明確ではなかったためだ。
コンピュータシミュレーションによる放射性物質の詳細な拡散分布予測は極めて困難だが、緊急時には予測の不確実性を低減した信頼性の高い予測情報が必要となる。研究チームは、天気状況と拡散方向(大気中の放射性物質の濃度分布の偏り)の関係が明瞭であれば、天気パターンから拡散方向を推定し、避難などの防護措置に有効利用できると考えた。
今回の研究では、コンピュータシミュレーションによる予測の不確実性を考慮し、広域での拡散方向(4方向)を定義して天気パターンとの関係性を調査し、機械学習を用いた拡散予測手法を開発した。過去5年間分にわたり、天気パターンからの推定結果と実際の拡散方向とを比べたところ、適中率の平均は0.85以上、天気予報(地上風の33時間予報値)を適用した場合でも、0.77以上と高い適中率を示した。
研究チームは、被曝リスクを低減するために、事前に拡散方向を把握して適切な防護措置を講じることは可能であり、情報の広範囲な共有とフィードバックにより、大幅な手法の改善も期待できるとする。さらに、人工知能など最新の技術を採用し、信頼性の高い情報の提供を目指すとしている。
論文情報:【Scientific Reports】Dispersion characteristics of radioactive materials estimated by wind patterns