名古屋大学医学部附属病院の長尾能雅教授らの研究グループは、同病院で医療事故防止のために集められたヒヤリ・ハット※や医療事故に関する報告(インシデントレポート)のデータから、AI技術を利用して病院の安全性を測定するモデルを開発した。
インシデントレポートシステムは、病院で発生したインシデントを現場の職員からの自発的な報告によって捉え、組織に潜むリスクを拾い上げようとするツールだが、安全の程度を直接測定するものではなく、主観的で記載の質にもバラつきが大きい。しかし、インシデントの内容を詳述する自由記載欄には価値のある様々な情報が反映されているため、研究グループはAI技術を用いて病院における安全を測定する物差しの開発を試みた。
研究グループは、専門家が「重症」あるいは「非重症」と判断したインシデントレポートのテキストデータから、それぞれの単語が出現する頻度を基に重症スコアを算出。個々の単語単位で数値化され、その後レポート単位、レポートを提出する医療者の集団(部署)の単位にまとめた。48,041のインシデントレポートから最終的に1,802の単語を数値化。検証の結果、レポート単位で算出された重症スコアは、専門家の重症・非重症の判断と比較して有意差を認めた。また、集団におけるスコアも、従来の専門家による分析と高い相関が示された。
今後、病院の安全性に関わるその他の要因も加味して物差しの精度を高めていくことで、病院の安全性をリアルタイムに測定したり、他の医療機関との安全性を比較したりすることが可能になるとしている。
※危ないことが起こったが、幸い事故には至らなかった出来事のこと。